「イタリア北部の墓地では30分ごとに埋葬が行われている」
それに比べ、欧州のエピセンター(発生源)、イタリア北部の医療機関は“巨大津波”に完全にのみ込まれてしまった。
英国人の看護師コーナー・マケインシュ氏はイタリア北部ベルガモのガヴァッツェーニ病院で働いている。「1人の患者が死亡すると空いたベッドにすぐ次の患者が運び込まれる。患者が無限に流れてくる。墓地では30分ごとに埋葬が行われている」と英ITVニュースに証言している。
「患者との1対1の関係はなくなった。患者は個人ではなく数になった。遺族が犠牲者の生きている姿を見たのは自宅から救急車で搬送された時が最後になる。死の瞬間と葬儀まで家族には連絡がない。無力感だけが漂う」
ベルガモにある別の病院のICUで働くダニエル・マッキーニ医師は3月7日、フェイスブックに自らの経験を書き込み、世界中の反響を呼んだ。マッキーニ医師は心肺蘇生法の担当だ。
「今ここで起きている全ての急激な変化は病院に超現実的な沈黙と空虚をもたらした。もはや外科医も、泌尿器科医も、整形外科医もない。私たちは今や単なる医者に過ぎない。私たちを飲み込もうとしている津波に立ち向かう1つのチームの一部でしかない」
「すでに気管挿管されてICUに行く人。他の人は手遅れだ。全ての人工呼吸器は黄金のようになる。全員を救うことができないので目に涙を浮かべている看護師、そして複数の患者の重要なバイタルサインからすでに定められている運命が分かるのだ」
エビデンスに基づく医療を提唱するNPO(非営利団体)GIMBE財団のニノ・カルタベロッタ代表によると、イタリアの医療従事者の感染者数は1万2052人。感染者全体12万4632人(4月4日時点)の9.7%を占める。最前線の医師94人、看護師26人が尊い命を落とした。
カルタベロッタ代表はツイッターで「何かが間違っているのは明白だ。医師と看護師を守ることができなければ患者の命は救えない。十分な防護具とPCR検査を医療従事者に」と何度も繰り返し訴えている。スペインでは感染者の14%に当たる1万5000人以上の医療従事者が感染した。
冒頭で紹介した、イギリスで行われている運動「Clap for Carers (医療・介護従事者に拍手を)」には筆者も毎回参加しているが、鍋を鳴らす音、指笛や拍手、歓声、車のクラクションが夜空に響き渡ると、自然と涙がこみ上げてくる。感染の恐怖と生活の不安、同居する家族以外に誰にも会えない寂しさ。
医師や看護師に送ったはずの声援が「私たちは決して独りじゃないんだよ」と自分の胸に迫ってくる。