1962年作品(102分)/東宝/4500円(税抜)/レンタルあり

 岡本喜八監督は『独立愚連隊』以降、第二次大戦下の中国北方の戦線を舞台にした映画を立て続けに撮っている。

 それらの作品はいずれも、軍隊の組織からはみ出した兵士たちが破れかぶれな戦いを繰り広げていく内容で、西部劇を下敷きにしたスピーディでスケールの大きいアクションとシニカルな笑いに満ちた、日本映画では珍しい娯楽色の濃い仕上がりになっている。

 今回取り上げる『どぶ鼠作戦』も、そんな一本だ。

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 主人公の林一等兵(加山雄三)が、豚を抱えて荒野を歩く――という冒頭が示しているように、本作は一連の作品の中でもコミカルさが強い。

 物語は、中国人に化けて敵地で工作することを専らにする特務隊長・白虎(佐藤允(まこと))が、八路軍に捕らわれた師団長の息子(夏木陽介)を救出に向かうというもの。白虎は軍法に違反した「ガラクタ」と呼ばれる兵士たち(加山、田中邦衛、中谷一郎、砂塚秀夫)を率いて、敵地深くに潜入していく。いかに敵の目から逃れ、敵の目をくらましながらミッションを達成するか。その様がスパイ映画のようなスリリングさの中で描かれていくのだが、そこは岡本喜八。決して生真面目に撮ることはなく、全編を通して喜劇的なエッセンスに貫かれている。

 特に驚かされたのは、物語中盤。白虎の部隊が敵に囲まれた危機を脱する場面だ。砂塚扮する佐々木二等兵は登場時に「忍術を使う」と紹介されていて、その時は冗談だと思っていたら、なんとこの危機に実際に使ってしまう。佐々木が踊ると催眠術のような効果があるようで、敵兵たちもつられて踊り出し、その隙に白虎たちはそこから見事に逃げおおせるのである。

 だが、『独立愚連隊』同様、ただ楽しいだけの映画ではない。岡本喜八の戦争映画の大半には共通する展開がある。それは、前線の兵たちが見捨てられ、最後には置き去りにされてしまうことだ(その究極が『激動の昭和史 沖縄決戦』で、沖縄本島そのものが東京の司令部により「見捨てられた前線」にされてしまう)。そこに岡本は戦争の理不尽さ、残酷さを象徴させていた。

 本作もそれは同じだ。ラスト、ミッションを終えた白虎たちだったが、戻ってみると既に師団は撤退を開始していた。本部には、わずかな殿軍が残るのみ。一度は自由気ままに生きることを決意した主人公たちは、この時どのような選択をしたのか――。それは実際に観て確認してほしい。

 そこでの彼らの姿は、どこまでも勇壮だ。だからこそ哀しく映る。前線で空しく散っていく命をせめて最期くらいは明るく弔おうという、喜八流「陽気な鎮魂歌」に思えた。