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「そのまま廃止されるかも」

 千曲川は新潟県に入ると“信濃川”と呼び名を変える日本一長い川。源流は埼玉・山梨・長野の県境にある甲武信ケ岳。そこに降り注いだ台風の大雨が下流域に大きな被害をもたらしたのだ。台風19号では北陸新幹線の車両基地が浸水したことが大きく報じられたが、これも千曲川の増水によるもの。上田電鉄の千曲川橋梁も、この増水のおかげで落下してしまった。そうなればとうぜん、電車が走ることはできない。

 上田市内を走る上田電鉄は地方の小さな私鉄である。経営基盤はお世辞にも盤石とはいえない。むしろ、上田市を始め国や県からから財政支援を受けて辛うじて存続しているといったほうが正しいだろう。2005年にはもともと別所線を運営していた上田交通から鉄道部門だけの子会社・上田電鉄を独立させるなど、経営再建に取り組んでいた。近年は利用促進策が一定の効果を見せており、『真田丸』の効果も相まって利用者数が減少から横ばい・微増へと転じたところ。そんな中での台風被害。ネット上などでは「そのまま廃止されるかも」という声もあった。だが、矢澤さんは「私たちはいっさいそんなことは考えなかった」と一蹴する。

真田幸村の赤備えをイメージした上田電鉄の「さなだどりーむ号」 ©鼠入昌史
上田~下之郷間は電車代行バスにより運行を再開した ©上田電鉄

「直ぐに再開してくれてありがとう」

「上田市も復旧を前提にすぐに動いてくれましたし、何より別所線は地元の方々の通勤通学に欠かせない路線ですから。そういう使命を持ってやっている以上、台風で被害を受けたからといって廃止にするわけにはいきません。被災直後は全区間で運休しましたが、10月15日から下之郷〜別所温泉間は電車、上田~下之郷間はバスにより運行を再開しました。通常より運転本数も少なく所要時間もかかるダイヤでしたが、直ぐに運転を再開してくれてありがとうと声を掛けていただいた時は本当にうれしかったです。」(矢澤さん)

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 被害があったのは千曲川橋梁だけ。つまり、城下~下之郷間では運転を再開できるはずだ。ただ、もともと城下駅は電車の折り返し運転をする構造になっていなかった。折り返し運転をするためには、信号設備などを整備する必要があるのだ。そこで、ひとまず下之郷~別所温泉間で運転を再開。信号設備等の整備が終わった11月16日に城下~別所温泉間が再開している。

下之郷駅 ©鼠入昌史