東京駅から北陸新幹線に揺られて約1時間半。群馬と長野の県境、碓氷峠をトンネルで抜け、佐久平を経て上田平にやってくる。上田駅が近づいて新幹線が速度を緩めると、左手前方、上田市街地に流れる千曲川を渡る一本の橋が見えてくる。真っ赤に塗られたトラス橋。上田電鉄の千曲川橋梁だ。上田の人たちにとって、新幹線の窓から見える上田電鉄の赤い橋は「上田に帰ってきたなあ」と思わせる、郷愁のシンボルなのだという――。
「あのとき雨による心配はそれほどしていなかった」
上田電鉄別所線は、上田駅から塩田平を西に走って別所温泉までを結ぶ小さなローカル線。別所温泉という観光地へのアクセスもそうだし、地域の通勤通学輸送も担う。上田は戦国時代に真田氏が治めた地で知られ、大河ドラマ『真田丸』が放送された2016年には上田電鉄も観光客で賑わったという。ところがこの上田電鉄、現在は上田駅から千曲川を渡って城下駅までの区間が運休中。この区間はバス代行輸送を行っており、電車が走っているのは城下~別所温泉間だけなのだ。それは、半年前の2019年10月12日から13日にかけて東日本を襲った台風19号の影響である。
「上田はもともと雨が少ないところなんです。ところどころに溜池もあるし、雨乞いのお祭りもあるくらいで、とにかく晴れる日が多くて雨が少ない。だからあのときも雨による心配はそれほどしていなかったんですよ」
台風19号がやってきた半年前のことをこう振り返るのは、上田電鉄で運輸課長を務める矢澤勉さん。もちろん警戒のために電車は運休していたが、台風の雨で大きな被害が出るとは考えていなかったという。矢澤さんも「多少の被害があっても長期間の運休になるとは思っていなかった」と打ち明ける。
「ですが、台風19号による雨は今までに経験したことがない雨量でした。さらに、上流でも大雨であったために今までにない増水でした。長野市では堤防が決壊してしまいましたし、上田市内でも越水した箇所がありました。千曲川橋梁付近の堤防ギリギリまで水かさが増えた。その後水が引いていく過程で堤防がえぐられて、橋の橋台も一緒に削られてしまった。それで城下駅側の橋の1スパンが、落下したというわけです。細かい部分を別にすれば、台風の被害はほぼそれだけといっていいですね」(矢澤さん)