新型コロナウイルスをめぐって、いよいよ日本でも緊急事態宣言が出された。この危機に皇室はどのような役割を担うことができるのか。日本近現代史が専門の名古屋大学大学院人文学研究科准教授、河西秀哉氏に聞いた。
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初動が遅れた令和皇室
安倍首相が「緊急事態宣言」を発令したというニュースを見て思い出したのは、東日本大震災のことです。あの時も、津波や原発事故の被害状況についての情報が日々刻々と伝えられ、非日常的な毎日が続いていました。
大災害と感染症を、同一に語ることは出来ませんが、国民に不安が広がっている点では同じなのかもしれません。そのような状況下で、明らかになりつつあるのが、皇室の行動の違いです。
東日本大震災のとき、平成の天皇陛下(現上皇)は、震災のわずか5日後の3月16日にビデオメッセージを出されて、国民に語りかけました。その後も被災地を精力的に訪問されました。国民に寄り添う「平成流」の皇室を率先して体現されたのです。年齢を重ねてもなお強い意思を持って公務を続けられる姿がメディアに流れ、多くの人々は敬愛の念を深めました。
翻って、今回の新型コロナウイルスを巡る事態ではどうでしょうか。
愛子さまの学習院高等科卒業式に天皇皇后両陛下が出席を控えられたこと、秋篠宮さまが皇嗣になられたことを内外に知らせる「立皇嗣の礼」の延期が調整されていることなどはニュースになりましたが、皇室の姿は表に見えてきません。
緊急事態宣言が出た3日後の4月10日になって、両陛下が政府専門家会議の尾身茂副座長から感染状況などについて説明を受けられたことが報じられたぐらいです。
天皇陛下は尾身氏に対し、「私たち皆がなお一層心を一つにして力を合わせながら、この感染症を抑え込み、現在の難しい状況を乗り越えていくことを心から願っています」などと述べたと伝えられました。
なぜ身動きがとれないのか
この違いはどこから生まれるのでしょうか。まず、今回の新型コロナウイルスという感染症には、明確な“被災地”がありません。いわば日本全土が被害に遭っているわけですから、特定の場所を訪問するという行動はとれません。