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《コロナに直面した「涙の皇后」》令和皇室はいま国民の目にどう“見える”か?

genre : ニュース, 社会

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重大局面を乗り越えれば…

 では、いまの皇室に何が求められているのでしょうか。

 新型コロナウイルスという感染症が相手だけに、これまで説明したように、物理的に国民の近くに寄り添うことは難しい。大切なのは、これまでの物理的な「近しさ」の表し方に代わる何かを打ち出して、「国民の精神に寄り添う存在であること」を伝えていくことです。

 ひとつの解決策は、〈私たちは一丸となってこの病気と戦っています。団結して強い意志を持ち続ければ、必ず病を克服できます〉とビデオメッセージを公開し、国を鼓舞したイギリスのエリザベス女王のように、国民に向かって直接語りかけることでしょう。

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 とはいえ日本では、女王のようなナショナリズムに踏み込んだメッセージは出しにくい。イギリスはあくまで君主制の国だからできたことです。

退位のお気持ちを表明されたビデオメッセージ(2016年8月) 宮内庁提供

 日本の象徴天皇制においては、平成の天皇が退位のお気持ちを表明された「おことば」のように、憲法で決められた範囲に留まりながら言葉を注意深く選んで国民に語りかけることが求められます。

 これだけ状況が刻一刻と変わっていくなかで、慎重に言葉を選びながら絶妙なタイミングでメッセージを伝えることは困難を極めます。しかし、現在の象徴天皇制の大きなポイントは、メディアを通じて天皇の存在を見せるということにあります。

河西秀哉氏 ©文藝春秋

 被災地訪問ひとつとっても、国民は天皇陛下のその姿をメディアで見かけるたびに、まるで自分のところに来てもらえたように感じ、共感や敬愛の念を抱いていった。目に見えない遠い存在ではなく、自分のすぐそばにいるかのような距離に感じられること。いわば国民の目に“見える”ということが、現代日本の天皇制の重要なキーになっています。

 今回の事態は、まさに令和の皇室にとっての最初の試練です。ただ、平成の時代のように、ここで国民に寄り添う新しい形が作れたのなら、令和皇室のあり方を示すひとつの契機にもなりえます。その舵取りが皇室の未来に大きな影響を与える大事な局面なのです。

《コロナに直面した「涙の皇后」》令和皇室はいま国民の目にどう“見える”か?

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