4月14日、トランプ大統領は、新型コロナウイルスへの対応が「中国寄り」と批判していた世界保健機関(WHO)への資金拠出停止を発表した。
アメリカと中国、この二大国の衝突が激しさを増している。新型コロナウイルス対策をめぐり、アメリカのトランプ大統領が「中国は秘密主義。もっと早く教えてくれれば対応策を練られた」(3月21日記者会見)と批判すれば、中国の華春瑩・外務省報道局長が「(米国は)自らの対応力が足りないために言い訳やスケープゴートを探すな」(4月2日会見)と反論するような状態だ。
人類が生命の危機に瀕しているこの状況で、なぜ米中の首脳は責任逃れの泥仕合を始めたのか。国際的な政治バランスが大きく変化しそうなこの局面に、日本はどう対応すべきか。元外交官の宮家邦彦氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)に聞いた。
◆◆◆
「危機に立ち向かう大統領」を演出したいトランプ
――新型コロナウイルスをめぐって米中対立が激化しています。どのようにご覧になっていますか。
宮家 新型コロナウイルス問題が発生する前から、米中の二大国は覇権を争い続けてきました。このところの衝突も、一連の対立のひとつではあるのですが、その内実、戦略はありません。これだけ世界的なパンデミックになっているにもかかわらず、主として内政上の理由から、苦し紛れに互いに責任をなすりつけ合っている状態です。
まず、アメリカは、新型コロナウイルスによる死者数は4月11日に2万人を超え、イタリアを抜いて世界最多となりました。ニューヨークでは初めて感染者が確認された3月1日から1カ月ほどで10万人以上にまで感染が拡大。その対応が上手くいったとは、とても言えない状況です。
そもそも、2月までアメリカ社会には感染症を侮っている空気がありました。当初はマスク姿でいることを奇異の目で見る向きもあり、事態がかなり進展するまでライフスタイルを切り替えられませんでした。こうした社会意識に貧困や人種といった問題も絡みあって、感染が広がってしまった。
そんな状況に拍車をかけたのが、トランプ大統領でした。3月初旬の時点でも「新型コロナウイルスはただの風邪だ」「いずれ消えてなくなる」と楽観論で押し通していました。
経済的なダメージを考えると、危険性を声高に叫んで社会がパニックになったら大変だと思ったのかも知れません。しかし結果的には、大統領選挙を目前にした大事な時期に、初動の遅れが露わになる事態となりました。