――トランプ大統領はその後、どういう手段に出たのでしょうか。
宮家 4月になる頃からようやく、「危機に立ち向かう戦時の大統領」というイメージを作ろうと言動のスタイルを変えてきています。そして、批判の矛先を逸らすために、スケープゴートを探すようになりました。
そこで目をつけたのが「WHO」でした。4月7日には、1月にアメリカが中国からの入国禁止措置を発表したことに反対されたとして、WHOは「中国中心主義」で世界に不適切な提言を行っていると批判。4月10日の記者会見でも「われわれは中国よりも10倍以上資金を拠出しているが、WHOは非常に中国寄りだ。適切ではなく、アメリカ国民にとって公平ではない」と攻撃しました。
そして14日、トランプ大統領はWHOの新型コロナウイルスへの対応の過ちを検証する間、資金拠出を停止するよう指示を出したと発表しました。
さらに問題なのが、先進国が知恵を出し合う場であるはずの国連やG7でも、アメリカが中国批判を展開し、議論が進んでいないことです。
3月25日に開かれたG7の外相によるテレビ電話会議でも、ポンペオ米国務長官が新型コロナウイルスを「武漢ウイルス」と呼ぶことにこだわり、共同声明をまとめることができませんでした。4月9日には国連の安全保障理事会が非公式のオンライン会合を開催しましたが、アメリカが「ウイルスの起源や特徴の分析が必要」と、中国が感染源であるという従来の主張を繰り返し、やはり決議案がまとまりませんでした。
そうやって世界的非常事態であるにもかかわらず、世界全体の新型コロナウイルスへの対応が不必要に遅れているのです。
誇り高い中国にとって許せない事態
――一方の中国は、どのような状況にあるのでしょうか。
宮家 とにかく世界中に混乱を引き起こしたという不名誉の極みを、どうにか「なかったことにしよう」と躍起になっています。今回のウイルス問題が中国から始まったことはほぼ間違いありません。そのこと自体、誇り高い中国人にとってプライドを大きく損ねるものでしょう。
現在、中国はロシアやイタリアに医師団を派遣するなど、積極的に他国への支援を行い、研究データの公開も進めて、自分たちが世界をリードする「新型コロナウイルス先進国」のように演出しています。国営新華社通信も3月4日の論評で、
〈中国の巨大な犠牲と代価があったからこそ、全世界は戦いのための貴重な時間を得ることができたのだ〉
〈世界は中国に感謝しなければならない〉
と自画自賛していますが、中国が支援で海外に送った検査キットの精度が高くないという報道も出ている始末。アメリカ同様、対応が上手くいっているとは言えず、焦りが見えます。