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連載昭和事件史

2020/04/19

「きくはさる3月12日にも同じくもらい子勇蔵(1歳)を風呂場で取り落としたとて殺害したほか、一昨年以来、女1人、男4人のもらい子を同様過失致死の形で殺していることが分かった」。記事は以下、多摩川村の無職男性の妻村井こう(32)が板橋町の産院で菊次郎を出産したが、同じく妊娠して入院していた煉瓦商の内妻出谷こよの(37)が「大家に世話するから」と言い、夫も失職していることから渡りに船と、養育費など18円にたくさんの着物を付けて子どもをやった。ところが、こよのは細民村のもらい子周旋人の「よいとまけ人夫」福田はつ(40)に子どもを渡し、はつからきくに10円をつけて渡し、残りの金で女ばかり数人集まって酒を飲んで騒いでしまった、という。

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「はつは付近でも有名なもらい子周旋人で、大正15年以来11人の子どもを世話しているが、そのうち現在生きている者はわずか2人で、それも乞食の手引きをしているが、あとはいずれも無残な手にかかったらしいことが分かった」。記事は「嫌疑濃厚な数名を召喚、取調べ中であるが」としたうえでさらにセンセーショナルに。「同村には子どもを連れて街頭に立つ乞食は70名いるが、いずれもこの種のもらい子ばかりで、1年に30人くらいが悲惨な死に方をしており、全村ほとんどがもらい子を殺していたらしく」「これを機会に同村全部の総検挙を行うことになった」と続く。記事で描かれた通り、これが「殺人鬼村」という見出しの“根拠”だろう。

 ちなみに、当時の18円、10円は2017年の貨幣価値でそれぞれ約3万5000円と約1万9000円。「よいとまけ」とは、美輪明宏さんの「ヨイトマケの唄」で知られる、建設工事の地固めのために重い槌を上げ下ろしする作業員のことだ。

裏付けのない報道が目立つ

 それにしても、すさまじい“飛ばし記事”だ。同紙は続報の4月15日付(発行は14日)夕刊でも「ますます怪奇的な 殺人鬼村の暗黒面」「もらひ子が手に入ると 成金気分で浮れる部落 自暴自棄の世を送る二千名 上流婦人の私生児も犠牲に」と見出しも書きたい放題。本文では「岩ノ坂にある太郎吉長屋、お化けの清さん長屋、北海道長屋、トンネル長屋、木賃宿などの主人や関係者7、8人を取り調べている」とある。

東京朝日の続報。いかにもおどろおどろしい

 対して同じ夕刊で東京日日は「貰ひ子の死は 布団で圧殺 ほかの三名の死にも疑ひ 板橋の恐ろしい夫婦」とややおとなしい。しかし、取調べと遺体解剖の結果、「幸次郎、きく両人が共謀し、前夜ふとんで菊次郎の鼻を圧し、窒息死亡させたことを自白した」と本筋の捜査情報を載せている。