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天久さんの心配は別のところにあった

 自宅保育に話を戻すと、福岡市はその後押しとして、5月6日までの緊急事態宣言の期間中は保護者が負担する保育料を日割り計算にする支援策を発表した。通常は2ヶ月連続で休むと退園しなくてはならないところを、登園しなくても継続して在籍を認めるという特例もつけた。

 同時に、保育園を運営する社会福祉法人への補助金について、当面は変更なく給付を決定した。そうすれば保育料が減収となってもひとまず各保育園は立ち行かない状況にはならずにすむ。どろんこ保育園の運営に関してはやっていけそうだと、天久さんは話した。

 それより、天久さんの心配は別のところにあった。

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どうしても眠れない女の子を新人の保育士が膝に抱いてお話をしていた

 気がかりは昨年暮れに開所した保育施設『どろんこの星』だった。12人の保護者のほとんどが中洲勤めなのだ。

 そもそも『どろんこの星』を開所したのは、中洲で働く親が400人とも500人とも言われるなか、どろんこ保育園に通う「寝る子」たちが15人ほどにとどまっていることに対する割り切れない思いからだった。

 天久さんの原点は中洲のホステスを支える夜間託児所だ。1973年当時、夜間保育園の認可制度はなかったが、その後、1981年に制度ができるのと前後して天久さんは社会福祉法人をつくり、昼間の認可保育園と夜間の認可保育園を運営するようになった。ところが、夜間保育の仕組みが整っていくのと反比例するように、ホステスの親たちはシステムからこぼれ落ち、近年、ホステスやキャバ嬢の保護者はわずか数人になっていた。不安定な雇用環境にある親たちのほとんどが、中洲周辺のベビーホテルに預けるか、家で留守番させていた。

 中洲の周辺にはベビーホテルが10ヶ所ほど点在する。中洲の親たちにとって欠かせないセイフティネットではあるが、一般にベビーホテルでは人件費に予算を多くかけられないため、保育士の資格を持った職員の雇用や保育士の数を確保するのが難しい。認可保育園との保育の質の差は大きく、子どもに保障されているはずの「平等な保育を受ける権利」からはほど遠い。

「どろんこの星」は順調にスタート

 天久さんは、内閣府が待機児童対策のためにつくった企業主導型保育施設の仕組みを活用し、深夜保育を引き受ける『どろんこの星』をつくることにした。開所に際し、社会福祉法人としては銀行の融資も含め1億円近くを出資した。

おやつと夕食は建物の中にある給食室で調理師がつくる

 こうして櫛田神社そばの借地に新園舎が完成したのが昨年10月。

 どろんこ保育園からのベテランの保育士に加えて新卒を2名採用し、調理師など合計7人の職員を配置。中洲でチラシを配り、12月、満を持して子どもたちの受け入れを開始した。

 中洲でスナックを経営する母親や、キャバクラで働く母、夫婦で居酒屋を経営する親など、入園希望者が続き、初年度の予定園児数12人の定員が今月にはいっぱいになった。午後2時から朝4時までの開園時間のシフトも整い、順調に滑り出していたのだ。

 そこへコロナの打撃である。