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慶大・東大の図書館で医学雑誌を読みまくった

 新聞社を退社してフリーランスになった下川耿史のテーマは庶民の性を研究することだった。今より偏見が強かったために、新聞・雑誌編集部に行くと「おい! グロ!」と蔑まれたこともあった。

 庶民の性を研究しようと慶大・東大の図書館で医学雑誌を読みまくった。民間人が図書館を利用する場合、慶大は百万円の入会金が必要だったが、公的機関の人物の紹介で自由に使えた。

 ところが、なにやら怪しい性の文献を漁っているのではと思われてパージされかける。紹介者に迷惑をかけたと思ったが、その人物は「それくらい熱心だったら、私も使われ甲斐があります」と不問に付してくれた。

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 東大では五冊がコピーの限度だったが、下川の選ぶ書誌を面白がったコピー担当者が「どんどん持ってきなよ」と何冊でも黙認してくれた。共にいい話だ。

 庶民を突き動かす根源は性欲である。下川耿史の性欲史観を抜きに民俗学は語れない。偉大な下川民俗学のどこを切っても噴出するのはただひとつ。

 反戦である。

しもかわこうし/1942年、福岡県生まれ。早稲田大学文学部を卒業後、産経新聞社出版局などを経て、著述家、風俗史家に。著書に『日本残酷写真史』『盆踊り 乱交の民俗学』など。
 

もとはしのぶひろ/1956年、埼玉県生まれ。作家。『全裸監督 村西とおる伝』『高田馬場アンダーグラウンド』など著書多数。

性風俗50年 (単行本)

耿史, 下川

筑摩書房

2020年2月29日 発売