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曽根海成と長谷川宙輝、ホークスを旅立った2人の物語

文春野球コラム Cリーグ2020

2020/05/21
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「ホークスで活躍するのが夢でした」

 そしてもう1人の物語です。2019年11月、ホークスで育成3年目を終え、一度自由契約となった長谷川宙輝投手をスワローズが獲得しました。衝撃的なニュースでしたが、ちょっと誇らしい気持ちにもなりました。入団からずっと期待していた選手で、2年目には育成ながら春季キャンプでA組に抜てき。能力の高さは誰もが認めてきましたが、なかなか支配下登録に至る結果は残せていませんでした。

 そんな中、スワローズは支配下、つまりは1軍の戦力として長谷川投手のことを評価したのです。「ホークスの育成選手が他球団では1軍の戦力になる」そう思うととても誇らしい気持ちになりましたが、当然複雑な思いもありました。

 1軍に評価されたと思ったら2軍、3軍を行ったり来たり。ポテンシャルは高くとも、次から次に課題が出てきて、苦しむ姿を何度も見てきました。それでも、長谷川投手は黙々と課題克服へ取り組む選手でした。昨季まで3軍投手コーチだった入来祐作さんも「一生懸命で探求心旺盛。彼には努力ができる才能がある」と話していました。その姿を見てきて、応援したい気持ちにならないわけがありません。だから、活躍のチャンスが広がることは嬉しいけれど、ホークスを退団するのは残念な気持ちでいっぱいでした。

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 でも、その複雑な思いを一番抱えていたのは本人でした。スワローズ移籍が決まって若鷹寮を退寮する日、私は別れの挨拶に行きました。

「(スワローズから声を掛けてもらって)嬉しい気持ちは強かったです。でも……」

 声を詰まらせながら、溢れてくるホークスへの想い。

「無名の高校からスカウトしてくれたのはホークス。スカウトの人がいなかったら、僕はここにいないし、このチャンスさえなかった。ホークスで活躍するのが夢でした」

 お世話になった方々への感謝の言葉でした。担当の山本省吾スカウトには毎日のように連絡したそうです。

「残って欲しいとは言われましたけど、僕の気持ちもわかってくれました」

 律儀な男は、たくさんの人に思いを馳せながら悩みました。

 また、彼の律義さを表す余談ですが、高校時代はAKB48のファンでしたが、ホークスに入団してからは「福岡に来たのでこれからはHKT48一筋になります!」とまっすぐな瞳で話していたのも今では懐かしく思います。オフシーズンになるとライブやイベントに通っていました。何事にも真っすぐな長谷川投手。取材させて頂いた3年間、良いときも悪いときも変わらず前へ進み続けていました。

 プロ野球選手である以上、1軍で活躍することが一番。たくさん悩んで、後ろ髪を引かれる思いもあったけれど、長谷川投手はプロとして生き抜く道を選びました。スワローズの1軍で、たくさん輝く姿を見せて欲しいです。

 彼らがホークスを去った時は寂しい気持ちになりましたが、今は新天地での活躍が楽しみでなりません。2人を含めたホークス出身選手が活躍すると「こんな選手がホークスでは1軍じゃなかったの?」「やっぱりホークスのスカウト力、育成力はすごい」と嬉しい声が上がるはずです。

 そして、何より彼らの負けてたまるか根性が実を結ぶところを見たいんです。彼らのような選手が活躍する世界であってほしいし、ホークスの選手だったことが誇りです。これからも福岡から応援しています。

 思い出すと私も初心に戻れました。どんな非常事態もどんな困難も、負けてたまるか根性で頑張っていきましょう!

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