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時代が止まったような味わい深さ

 奥にはカウンター席もあるのだが、孤立した状態になる構造なので、ちょっと座るのを躊躇してしまう。どうしたものかと思いつつ、「私、出ましょうか?」と声をかけてくださった男性に「いえいえ、大丈夫です」と恐縮していたら、「相席でよろしいですか?」と奥様らしき女性から声をかけられた。

 もちろん断る理由もなく、品のよさそうな70代男性が座る席に、相席させていただくことにする。

 
 

 それにしても予想どおり、いや、予想以上に味わい深い店だ。壁が飴色になっていて、テーブルも椅子も使い込まれている。「時代が止まったようだ」という使い古された表現が、ここまで似合う店も珍しいのではないか。なんだか、映画にでも出てきそうだ。

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 お客さんは全員が常連さんだったようだが、愛される理由がなんとなくわかる。訪れる人の日常のなかに、自然な形で組み込まれているような雰囲気があるのだ。

まずはビールと餃子を注文!

 しかもバスと電車を乗り継ぎ、1時間近くかけてたどり着いた結果、これまた予想外の展開となったのだった。

 ビールと餃子を注文したとき、先ほどの女性から「どちらからお出かけになったんですか?」と聞かれたので「荻窪です」と答えたら、「荻窪には縁があって、いまでもよく行き来しているんですよ」という答えが返ってきたのだ。

 それどころか話を進めていくと、私と共通の知人が何人かいることまで判明。「えっ、○○さんをご存知なんですか?」という、地元の人間でも知らないようなローカルな話題が飛び交うことになったのである。

 
 
 

 もう40年以上会っていない幼馴染み(幼稚園と小学校が一緒)の話を、初めて訪れた所沢のお店の方と共有できるとは思ってもいなかった。

 さらに相席させていただいた男性も「私も高校時代は国分寺乗り換えだったから中央線沿線の荻窪だ、西荻だ、高円寺だと、同級生がそのへんにいて」と加わってこられたので、入店後10分もしないうちに妙な連帯感が生まれてしまったのである。