1ページ目から読む
3/4ページ目

クラブでのクラスター感染と「新天地」の違い

──大邱市で起きた集団感染では、あわや医療崩壊という局面もありました。

鄭 軽症者を入院させる「生活治療センター」をあらかじめ作っておくべきでした。大邱市には大学病院が5つあり、医科大学も4カ所ありましたが、それでも病床数が十分でなく、軽症者が病床を逼迫させてしまった。命を落とされた方も出ました。

 防疫はスピードが大事ですが、政府と自治体の対応は少し遅かった。それでも、その後すぐに軽症者のための「生活治療センター」が韓国全国(18カ所)にできたのはよかったです。

ADVERTISEMENT

──「生活防疫」に転換してからすぐに梨泰院(外国人も多く居住する、東京の六本木にも例えられる街)の複数のクラブから感染者が出て、二次感染も含めて現在、新規の感染者数が再び増加しています。

ソウル・梨泰院の様子 ©getty

鄭 梨泰院以外の他地域でのクラブやバーからも感染者が出ました。これは、水面下にいた無症状者や軽症者などの静かな新型コロナウイルス伝播者が表に現われた。つまり、氷山の一角といえます。社会全般に広がっていることが発見されたのです。

 梨泰院だけでなく、クラブの多い弘益大学周辺でも調査をすれば感染者がでてくるでしょう。若い世代では症状があっても病院に行かなかったり、無症状な人も多いですから、静かに伝播させてしまう。これは大邱市で起きた「新天地イエス教会」とは異なるケースです。

プライバシー保護と防疫は両立するか

──行動経路の調査の結果、梨泰院のクラブでの最初の感染者がゲイクラブに行っていたことが公表され、それが報じられたことで、「強制アウティング」(性的指向などが本人の了解なしに公になってしまうこと)の問題が浮上しました。

鄭 そうですね。そうした批判を受けて行政も感染者が特定されないよう必要最小限の情報をだすこと、匿名で検査を受けられるようにすることなどを約束しました。

 梨泰院のクラブだけでなくその一帯にその時間帯に居合わせた人たちすべてを携帯の位置情報から把握して、プライバシーの問題から検査をためらっている人たちにまず検査を受けるよう呼びかけています(韓国では感染病予防や感染伝播の遮断のために必要な場合、感染症の疑いのある者への情報提供を保健福祉相や疾病管理本部長が要請できる法律がある)。

 防疫の立場からいうと、行動経路の確認、共有はとても重要です。MERSの時は患者が入院していた病院名を公開できなかったために、地方から病院を訪れていた人が院内で感染して全国に広がってしまいました。病院名を公開していたら、さらなる広がりはなかったはずです。