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──それでも、フランスなどからは「個人の行動経路を把握することは市民の自由を奪うことだ」という批判もありました。

鄭 各国の慣習に応じて、受け入れる程度の差があるかと思います。共同体での合意がなければできないことでしょう。韓国社会では、MERSを経験したことで、『個人の情報、個人のプライバシーより共益が優先する』というコンセンサスができていました。感染病に関して個人情報が必要な場合、提供するよう要請できる法律はありますが、今回は強制したわけではありません。

 MERSの時は186人が感染して38人が亡くなった。死亡率は約20%です。新たな病気がでれば命を失いかねないことが身に沁みました。ですから、マスク文化も定着しましたし、今回は国民から積極的な協力が見られました。それだけ危機感があるということです。

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日本は「今からでも検査を増やして隔離すべき」

──日本の新型コロナウイルスの状況についてはどのように見ておられるのでしょうか。

鄭 日本では自粛が続いているようですが、そのため感染の広がりをある程度、抑えられているのではないでしょうか。日本の方々はみなさん静かに規則を守りますから。無症状者や軽症者が自覚症状のないまま感染し、自然治癒しているケースもあるでしょう。

 ただ、自粛を解いて人が集るようになれば(感染者も)出てくるでしょう。無症状者や軽症者などの静かな伝播者が基礎疾患のある人や高齢者に感染させるのを防ぐためには、今からでも検査を増やして隔離することが重要なのではないかと思います。

 私がKCDCにいた頃、日本や中国と何らかの形で協力できないかと思い、日本や中国の組織を探しました。中国には中国疾病預防控制中心(CCDC)があり連絡がとれましたが、日本には疾病予防を担当するCDCのような組織を見つけられませんでした。国立感染症研究所は行政的な力が弱いと聞きました。

 毎年新たなウイルスが発見されています。たくさんの新しいウイルスが待ち受けている状況ですから、日本にもCDCのような組織が必要になってきているのではないでしょうか。

(本人提供)

長期化する新型コロナウイルス流行との向き合い方

──新型コロナウイルスのワクチンの可能性についてお聞きします。

鄭 各国、ワクチン開発に鎬(しのぎ)を削っているのではないでしょうか。韓国の開発会社は来年春頃にはできるといっていて、それよりも前に中国からでてくる可能性があります。しかし、ワクチンができても、安全性を確かめなければならないですし、新型コロナウイルスが変異してしまえば開発したワクチンが無駄になってしまう可能性もあります。いつ頃できると言える自信はありません。

──長期化する新型コロナウイルス流行とわたしたちはどう向き合っていけばいいのでしょう。

鄭 今年、インフルエンザなどの感染病は激減しました。新型コロナウイルスの出現で手を洗うこと、マスクをつけること、咳エチケットを守ることなどが徹底された効果だといわれています。そうした市民の意識を持続させて、生活の上での防疫を習慣化することが大事だと思います。その上で、検査のようなシステムをどう構築していくかなどは国の、政策の役割になるのではないでしょうか。