──その検査はどういうものなのですか?
鄭 新型コロナウイルス流行前から知られているコロナウイルスは6つありました。「汎コロナ検査」では、その6つと他のコロナウイルスも探し当てられるようにしたのです。この「汎コロナ検査」で陽性が出た人には、再びすでに分かっている6つのコロナに対する検査を行いました。
その中で陽性が出ればすでに知られている6つのコロナウイルスのうちの一つと診断できます。逆に、どれにもひっかからなければ新型と判断できるわけです。最初の患者からこの検査を進めることで、DNAシークエンシング(DNA Sequencing。DNAを構成する塩基配列)を早期に把握できました。そこから、新型コロナウイルスを探し出せる今のPCR検査への転換につながったのです。
わずか1ヶ月で大量のPCR検査キットを作成
──2月下旬の新興宗教「新天地イエス教会」での集団感染が起きた際には大量のPCR検査が実施されました。韓国での最初の感染者が確認された1月20日から1カ月ほどです。このわずかな時間で大量なPCR検査キット作成が可能だったということですか?
鄭 KCDCがプロトコルを公開して、バイオ関連企業やベンチャー企業がすぐに開発に取りかかったんです。その際の問題は、検査キットの承認過程をいかにスピーディに行うか。しかし、MERSの経験があったため、この問題も難なくクリアできました。
実は任期中の2016年春頃、検査キットに対する認可を出す食品医薬品安全処にかけあって、MERSのような緊急時に煩雑な手続きを省略してすぐに承認できるようなファストトラック(手続き迅速処理)である「緊急使用承認制度」を作ってあったんです。
これを使って、2月上旬から続々と承認がおりました。この制度がなかったなら、承認されるまでひと月はかかりますから、下旬に起きた集団感染に間に合わなかったでしょう。MERSからの教訓です。
MERS以降、韓国で実施されたこと
──やはり、韓国ではMERSの時の経験が今回の新型コロナウイルス対策へ大きな影響があるのですね。
鄭 MERSのつらい記憶は今回、大きく生かされました。KCDCは、今もMERSの疑いのある人を管理しています。たとえば、中東からの帰国・入国者は特別検疫対象です。空港では、中東から到着した乗客は飛行機から降りてすぐの場所で検温し、健康に関する問診書を書いてもらって、疑わしいとなれば入国後14日間が過ぎるまでは行動をすべて追跡しています。
自宅での能動監視と言って、防疫当局が電話で確認します。本当に疑わしい人は一人ずつ公共の病院に来てもらって陰圧室で観察をします。陰圧室はMERS後、公共・民間病院問わず、たくさんできました。そういうことを2016年から4年間ずっとやってきた。今思えば、新型コロナウイルス対策の訓練をしてきたことになります。
新しいウイルスが見つかれば全国の医師(およそ13万人)に感染情報も随時送ってきました。何か起こればただちに検査して接触者を調査することは私たちの日常になっているのです。