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病院船は自衛隊能力を強化するか?

 病院船の導入は災害対応の他にも、有事での自衛隊の能力を強化するという主張もある。が、それにも筆者は懐疑的である。

 朝鮮戦争以後、米軍の負傷兵の死亡率は長い間改善がみられず、1991年の湾岸戦争でも負傷兵の24%ほどが死亡していた。それがイラク戦争では10%と大きな改善をみせる。この要因としてボディーアーマーの普及と、前線で緊急の外科処置を行う小部隊の運用、それに迅速な搬送システム等が挙げられる。初期の搬送はヘリで迅速化され、米本国で治療が必要な患者の搬送に関しては、ベトナム戦争時は本国搬送まで45日かかっていたのが、イラク戦争では4日と大幅に短縮された。この搬送システムには、イラクに派遣された自衛隊も助けられている。

コンフォートの甲板で発着を行うUH-60ブラックホーク ©US Navy

 こうした戦場医療の革新が死亡率低下をもたらした訳だが、それにマーシー級病院船が関与したという話を筆者は寡聞にして知らないし、搬送システムにも病院船は含まれていない。

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 仮に自衛隊が将来遭遇する可能性のある有事を想定するなら、病院船導入よりも搬送システムの高度化、各地の自衛隊病院の能力拡充といった施策の方が、自衛隊にとり費用対効果が大きいと考える。感染症対策に限っても、今回のコロナ禍において、武漢からのチャーター便帰国者や、ダイヤモンド・プリンセス号の患者約260名を受け入れた自衛隊中央病院が高く評価されたことからも、効果は高いだろう。

「病院船における戦艦大和」になるか

 世界最大の病院船である米海軍のマーシー級だが、自衛隊医官による病院船に関する論文の中で、マーシー級について「病院船における戦艦大和か」と医官が発言し、少なからぬ艦艇部隊関係者から賛同を得たという話がある(『防衛衛生』2000年4月)。大きすぎる、遅すぎる、費用対効果が悪すぎる、という観点からだ。

ニューヨークを出港するコンフォート ©US Navy

 この分析は見過ごせない。前記の医官は、医師の視点からはマーシー級の病院機能を評価している反面、自衛官の視点からは軍が運用する船舶として辛辣な評価を下しているのだ。政治的事情だろうが、これまで国が行ってきた検討でも、有事の際の自衛隊の船という要素は検討されていない。運用側の検討も経ずして建造した結果、運用を任されるだろう自衛隊の負担になっては本末転倒である。