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都心のタワマンは“過去の遺物”に……コロナショックで「不動産の価値」が激変する

「駅徒歩7分」を気にする住宅選びは終わる

2020/05/19
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1か月で倒産してもおかしくないレベル

 また今回のコロナ禍でほぼ全滅状態にあるのがホテルなどの宿泊施設だ。ホテルは自らが建物を所有して運営しているケースはむしろ稀で、多くが建物を賃借している。150室程度の平均的なビジネスホテルであれば、1000坪程度の床面積を必要とする。賃借料は場所によっても異なるが都内であれば坪当たり1万2000円程度はする。家賃負担は月額で1200万円にもなる。

 コロナ禍での都内のホテル稼働率は軒並み10%を切る水準に落ち込んでいる。宿泊平均単価も現在では大幅に下がって都内でも1泊5000円から6000円程度。どんなに計算しても月の売り上げは300万円にも届かない。この時点ですでに月額900万円の赤字だ。

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 だが、これに加えて従業員の人件費や水道光熱費などの管理コストを勘案すると、多少の現金を持っている会社であっても1か月で倒産してもおかしくないレベルになってしまうのだ。

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ビジネスの根幹が崩れてしまった

 とりわけ東京五輪開催を見込んで都内に多数建設されてきた新築ホテルにとって状況はさらに厳しい。この春は五輪開催に何とか間に合わせたホテルなどの建物竣工ラッシュを迎えている。おそらくほとんどのホテルでは既に大家である不動産会社と建物賃貸借契約が締結済みで、建物竣工と同時に賃料の支払いが発生するはずだ。

 五輪前、都内ではホテル建設を目論んで多くの不動産会社がしのぎを削った。高騰する都心の土地をマンション業者などとの競争に打ち勝って仕込み、上昇が止まらない建設費を何とか呑み込んでこの春開業を迎える。それもこれも20年夏に五輪が「開催される」ことを前提にしたからこその頑張りだった。

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 ところが肝心の五輪が開催延期になっただけではなく、インバウンド客が来なくなり、経済活動のすべてが止まり、国内の観光客もビジネス客も「全滅」という大惨事が起こったのだ。ビジネスの根幹が崩れてしまったホテルにとって、大家に払う家賃は存在しないのである。

 家賃補助は一見すると国や政府の“やっている感”を演出するのには一役買っているように思えるが、日本経済はそんな程度ではすまされない大変な状況に陥っていることは、この不動産の状況を俯瞰しただけでも明らかなのである。