このことは、将来的には確実に、企業が都心に構えるオフィスは必要最小限のもの、たとえばヘッドクォーター部分程度になることを意味している。
さらに今回のコロナ禍が企業経営に投げかけたのが、感染リスクの問題だ。ある会社ではすでに、都心のオフィスのワンフロアで全役員が毎日一緒に仕事を行うのは、いざ感染症が蔓延した場合、大きなリスクになると考えて、オフィスを分散させる方向に舵を切ったという。これまでの東京一極集中、都心であるほどオフィスの価値は高いといった従来の価値観を変える動きとみてよいだろう。
「駅徒歩7分」に縛られる必要はなくなった
そして、都心のオフィスに通う必要がなくなった事務系ワーカーたちは、今までのように大手町まで40分だの、駅徒歩7分以内、いや5分以内などといった「会社ファースト」の住宅選びをしなくてもよいことになるだろう。
都心のタワマンを無理して買う必要もなくなる。会社の近くだからといって都心の賃貸マンションに高い家賃を払って住む必要もなくなる。
東京のサラリーマンであっても、三浦半島に住んで、毎朝サーフィンをしてそのまま自宅や近所のコワーキングで働く。夫婦であれば仕事が先に終わったほうから地元の保育園に子供を迎えに行く。夕方にはもういちど海でサーフィンを楽しむ。こんな生活が可能になるのだ。
年収の何倍ものお金を自分が住むためだけの家につぎ込むような行動も、都心のオフィスを企業としての見栄を張るためだけにものすごい費用をかけて構える行動も、実際には個人や企業に何の利益ももたらしてはいないことに、日本人の多くが気付き始めている。新しい価値観はこれまでの業界ピラミッドを崩壊に導くかもしれない。不動産業界は大きな変革期に差し掛かっているのである。