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 じつは『サザエさん』ではこれまでに、伊佐坂先生がパソコンでの執筆に挑戦したり、波平が近所の人から携帯電話を借りたりと、新しいツールもたびたび登場してきた。前出の田中プロデューサーは《現代の最先端ではなく、その後ろ端にギリギリしがみついているくらいの現代》と表現しているが(※2)、言い得て妙である。新しいものをまったく描かないのも不自然だし、かといっていきなり作中の風景やアイテムをすべて変えてしまっては、あののんびりとした世界を壊しかねない。『サザエさん』でこれまで行なわれてきたリニューアルは、作品の世界観を変えず、支え続けていくためのものだったともいえる。

現代のサザエさん(Amazon Prime Videoより)

 残念ながら、先述のとおり『サザエさん』はコロナ禍にともない新作の制作が中断されてしまったが、そこで半世紀にわたって描かれてきた家族の何気ない日常とは、考えてみれば、ウイルスの感染拡大が収まったあとに私たちの望む“未来”ともいえないだろうか。収束までにはおそらくまだしばらくかかるだろうが、今回の再放送に、いずれ来るべき未来の姿を見出しつつ、この危機を乗り切りたい。

※1 「50周年スペシャル企画<あなたの一家が『サザエさん』に登場!>出演家族が決定!」(フジテレビ公式サイト、2019年6月2日)
※2 『アニメ『サザエさん』放送50周年記念ブック サザエさんヒストリーブック1969-2019』(扶桑社、2019年)