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 こうした一連の体制の転換に、アニメを制作するエイケンは社運を賭けていたという。このとき、新たにフジテレビからプロデューサーに就いた久保田榮一が最初に手がけた仕事も、脚本家探しだった(余談ながら、まだ駆け出しだった脚本家の三谷幸喜が、『サザエさん』で4本のストーリーを執筆したのも1985年である)。エイケン側のプロデューサーとなった毛内節夫によれば、この転換に際し集められた脚本家はみんな『サザエさん』の世界を書くのが初めてだっただけに、軌道に乗せるまで10年はかかったという。この間、演出の村山修が脚本も手がけるようになり、雪室たち旧来の作家陣も復帰してくれたおかげでだいぶよくなったとも、毛内は語っている(※2)。

 こうして『サザエさん』は番組が始まって以来最大の転換期を乗り切り、さらに放送回数を重ねていった。その後、作品の世界観にこそ大きな変化はないものの、さまざまな面でリニューアルが繰り返された。2013年には、それまでセル画が使われてきたアニメ制作が、完全デジタル化されている。また、各話で原作の4コマ漫画が使われていることに変わりはないものの(初期には原作を一切使わない回もあったらしいが)、一度放送に使用した原作は2年間は使わないルールになっている。同じ話も、間隔を空けることで新鮮な気持ちで見てもらうための工夫だ。これもまた長続きする理由なのだろう。

2016年プロ野球「ソフトバンク対西武」の始球式に登場したサザエさん一家

サザエさんに「パソコンや携帯電話が登場した回」

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『サザエさん』には、お茶の間で家族がちゃぶ台を囲んでの食事、あるいはブラウン管テレビや黒電話など、すでに日本の大半の家庭からは失われたものも描かれている。そのため、いまや「昭和の家族の話」と勘違いしている人も少なくない。しかし、プロデューサーやスタッフたちに言わせると、『サザエさん』の設定はあくまで「現代」なのだ。エイケンの現在のプロデューサーである田中洋一は、《昭和的な雰囲気のサザエさん一家やご近所さんたちがこの現代にいて、そこで生まれるドラマを描くという認識で話を作っています》と語っている(※2)。田中によれば、一度、間違い探しの企画でテレビを液晶に変えてみたところ、いきなり画面が殺風景になり、温かみが失せてしまったように感じたという。ここから田中は、テレビや電話などのアイテムはとりあえずそのままにして、今後、観ている人に完全に受け入れられなくなったときにでも変更を検討しようと思ったとか。