恋愛ですらコントロールを必要とする世界観
そして、学園ドラマで重要になってくる「恋愛」というテーマにおいても、『野ブタ。』はとことん”学校という社会“を描いている。
第7話で、恋人のまり子(戸田恵梨香)に「本当に(私たち)付き合っているの?」と問われた修二はこう答えている。
「俺さ、今まで人を好きになったことがなくて。だから、まり子のこと、好きだって思ったことがないんだ。なんか恋愛みたいに、自分をコントロールできなくなるのが苦手っていうか……そういうのが嫌いで。だけど、周りの奴らには恋人がいるんだーって風に思われたくて、それで、まり子と一緒に弁当を食べたりしてた」
木皿泉が描いた『野ブタ。』という世界に生きる高校生たちは、恋愛一つとっても純粋に「好き」という感情だけで描写されない。まり子はスクールカースト最上位の美少女で、恋愛をするのにも他者の目という“社会”を配慮していることが窺え、それもまた寂しい。
さらに、同じ木皿泉脚本で、学園ドラマであり、ややファンタジー要素が強かった『Q10』(佐藤健演じる高校生のもとに前田敦子演じるロボットがやってきたというストーリー)と、“男性主人公がヒロインを抱き締めるシーン”を比べてみると、その違いがはっきりしてくる。
「俺はいま、宇宙の4%を抱きしめている」(『Q10』第4話より)
「野ブタに抱きしめられて、初めてわかった。オレは、寂しい人間だ」(『野ブタ。』第7話より)
『Q10』の2人は宇宙の中で恋をしているが、『野ブタ。』の2人は社会の中で恋をしている。そして、『Q10』の恋は純愛と言っていい類だが、『野ブタ。』の恋は、実社会の大人の恋にも近いのだ。
ちなみに7話のこの抱きしめ合うときのセリフは、「子どもにはわからないから」という理由で最初はNGが出たのを、木皿泉が押し通したのだという。(『ダ・ヴィンチ』2019年10月号)
周囲が見えすぎているがゆえに苦しむ主人公
ここまで読み解いてみて、やはり『野ブタ。』の暗さを象徴しているのは異色ともいえる“桐谷修二”というキャラクター像にあると言える。第1話の冒頭、モノローグという形で、主人公の修二のスタンスが示される。
「この世の全てはゲームだ。っていうか、そう思わないとやってられないことばっかりだ」「マジになったほうが負け」「うまく立ち回っていいポジションを維持してれば傷つくことなくゴールまでいける」
そして1話のラストは、同じくモノローグでこう終わる。
「このときの俺はまるでわかってなかった。この先、俺達は途方もなく暗くて深い、人の悪意というものと戦わなければならないということに」
主題歌としてこの世界に初めて『青春アミーゴ』が流れたのは、こんな暗すぎるセリフの直後だったのだ。