文春オンライン
“亀と山P”なのに暗すぎるドラマ「野ブタ。」が2020年にウケるのはなぜか

“亀と山P”なのに暗すぎるドラマ「野ブタ。」が2020年にウケるのはなぜか

修二は「亀梨和也が演じたからこそ」生まれた

2020/05/16
note

修二を揺さぶり続けた野ブタと彰が教えてくれたこと

 この「大人という仮面」のキーワードは、主人公・修二を揺さぶり続けた野ブタ(信子)にも共通する。

 第1話で、願えば何でも叶う猿の手を拾った野ブタは、最初に「バンドー(いじめっ子)を消して」と願うがすぐに取り消して「私はバンドーのいる世界で生きてゆきます」と誓う。さらに第5話では、モテるためのプロデュースをされそうになるが、それを断る。“モテる女子”の仮面をつけることを拒否するのだ。

 社会に自分を適応させるのが得意な修二に対し、野ブタは自分をあえて変えずに、自分の生きやすい世界にするために、他者を変えていく。それは昨今、誰もが憧れる「ありのままで生きていく」ということであり、一方で“自分のままでいる”と子どもじみても聞こえる。

ADVERTISEMENT

 しかし、自分を社会に適応させすぎた果てに待っているのは、夢が消えてしまった、「仮面をつけたつまらない大人」である。もし、信子と彰に出会わず、あのまま外面をよくし続けて生きていたら、修二の先にあった未来は“かっこいい大人”ではないだろう。つけていたつもりの仮面は、いつしか外れなくなって、スーツという“同じ服”を着て、夢を失って歩いていたかもしれない。

 このドラマの2年後、彰を演じた山下智久は所属していたNEWSの『weeeek』という曲で「外面よくして35歳を過ぎた頃 俺たちどんな顔? かっこいい大人になれてるの」と歌っている。そして奇しくも今年の4月、山下智久は35歳を迎えた。

2020年より積極的な活動をみせる「亀と山P」(アルバム『SI』より)

「遅すぎることなんて無いのよ。私達は何でもできるんだから」

 当時10代で『野ブタ。』を見ながら学校という小さな社会に生きていた僕たちは、そのまま仮面を外せず、“かっこいい大人”にはなれなかったのかもしれない。そして、あれから15年が経って大人になった今、そのままの構造をただ拡大したかのような社会に生きている。

 それは、2020年の今『野ブタ。』が依然として広く受け入れられていることの裏返しなのかもしれない。僕たちはあのとき、『野ブタ。』から学びきれていなかったのだろうか。

 でも、木皿泉はドラマ『すいか』でこう書いている。

「遅すぎることなんて無いのよ。私達は何でもできるんだから」

“亀と山P”なのに暗すぎるドラマ「野ブタ。」が2020年にウケるのはなぜか

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー