「あんた……ヤクザもんのこと詳しいね?」
「新宿警察には、雪の夜、大きな事件が起こるというジンクスがあるんだ」
「ミステリーみたいな話ですね。いつ頃からですか?」
コーヒーを飲みながら相棒の刑事が補足した。
「俺がここにきたときはもうあった。けっこう前、昭和の頃から語り継がれてるらしい。なのに今夜は丑三つ時までなにもなかったんで、誰もが静かな夜だと思ってた。珍しいなぁと。でも不思議なことにそれを口にすると事件が起こる。みんな妙に無口だった。それなのに……やっぱりだったもんな」
「雪の降る日は事件も一緒に降ってくるんだよ」
「違いねぇ……」
刑事たちは、私が暴力団と判断した男の素性も教えてくれた。予想はドンピシャ、男は10階に事務所を構える暴力団組織の組員だった。組織名や肩書きをメモしていると、今度は刑事が訊いてきた。
「あんた……ヤクザもんのこと詳しいね?」
「ここに住んでれば……嫌でも詳しくなりますよ」
「じゃあ、あの事件の黒幕知ってる?」
刑事たちはとある抗争事件後に病死した広域組織幹部が、実は謀殺されていた……という爆弾発言をした。
「ホントですか?」
「そうだよ。みんな知ってる。ヤクザは怖いよなぁ~」
刑事だけあって話にはリアリティがあった。名前が挙がった幹部とは親しい間柄だったので、その後、暴力団筋に確認すると、多くの人間が「謀殺」との見解を示し、この暴露を裏付けした。その後、事件化することはなく真偽は不明だが、殺されるだけの理由はある。
「これも事件なんですか?」
「わかんねぇけど……実際、何人もさらわれているからなぁ」
「さらわれた人は見つかるんですか?」
「見つかったら怖くないじゃん」
「そうですね」
「そんな通報がしょっちゅうあるんだよ。この間も……すぐ現場に行って、目撃者はたくさんいたんだけど……」
「見つからなかったんですか?」
「ああ。ほんとヤクザは怖い」