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「オーストラリア式の子育て」は命令口調をなるべく使わない

――本書の「子どもを尊重するオーストラリア式の子育て」のエピソードは、目からウロコでした。

松永 私の友人の、オーストラリア在住のペンゲリーさんという女性は「日本人の子はとにかく甘やかされてて親はひたすら叱るだけ、そんな国は日本しかない」と言います。彼女は25歳までは日本に住んでいて、今オーストラリアで世界中から20年にわたってホームステイの若者を受け入れています。無論、オーストラリアと日本は文化が違います。しかし、アメリカでもヨーロッパでも、子どもでも相手をちゃんと尊重して命令口調はなるべく使わず、その子なりの人格を尊重するような子育てをしているという話を聞いて、やはりなと思いました。「〇〇しちゃダメ!」ではなく、「何々してくれるかな」っていう声かけひとつで親子関係は大きく変わります。

©︎iStock.com

――たしかに大人だって、否定形で言われるよりも、お願いのかたちで言われたほうが気持ちいいですよね。

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松永 まさにそうで、子どもが小さいからといって、言っても分からないだろうと、怒鳴ったり、人格を否定するような叱り方は逆効果です。ましてや“しつけ”と称して体罰を与えるのは論外です。私は、自分の子がだだをこねて大泣きしても、「うるさい!」とか「静かにしろ!」とか言ったことはありません。3歳の子にたいしても、「そうやってだだをこねて大泣きしてしまうと、それが自分自身を傷つけるんだよ。自分の価値をダメにして、まわりの人も悲しくさせるんだよ」と言い聞かせていました。そんな難しい言葉を使って通じるのかと言われそうですけど、少し難しい言葉でも親が誠実に言ってることは3歳児にだって通じます。事実うちの子は私の言葉を聞いてぴたりと泣き止んでましたし、私のクリニックにいらしている親子はこうした方法で成功している方々がたくさんいます。

 親から尊重されて育った子は、他人を尊重する子に育ちます。これは33年にわたる小児科・小児外科医としての経験からはっきり言えることです。

オンリーワンの花を咲かせる子育てとは

――「オンリーワンの花を咲かせる」という言葉に込めた思いはなんでしょうか。

松永 これまで私はたくさんの難病の子、障害の子を治療してきました。小児がんを患っていたり、赤ちゃんのときから呼吸ができなくて人工呼吸器をつけていたり、そういう非常に過酷な運命のもとに生まれてくる子どもたちです。それでそのご家庭が不幸になるかというと、決してそうではありません。家族が不幸になるか幸福になれるかは子どもの障害の有無には関係なくて、実はご夫婦がどう生きるかを決断することで決まるんですね。そういうご家庭をたくさん見てきました。

©︎石川啓次/文藝春秋

 さまざまな幸せのかたちを見ている中で、お子さんひとりひとりの個性を肯定し、その子なりのオンリーワンの花の咲かせ方ができれば、それこそが幸せだと思うようになりました。みんなが普通である必要はなくて、いろんな生き方の自由があっていい。親が子どもの個性を尊重して伸びしろを信じることで、子は思わぬ力を発揮します。

 子育てにはいろんな苦労がつきものです。親にしたら泣きたくなるようなときもあるでしょう。でも親子で心を合わせれば必ず道が開けます。本書がその一助になればとても嬉しく思います。

プロフィール

松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。「松永クリニック小児科・小児外科」院長。87年、千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。千葉大学医学部附属病院で19年間勤務し、約1800件の手術を手掛ける。2006年、「松永クリニック小児科・小児外科」を開院。日本小児外科学会・会長特別表彰など受賞歴多数。13年、『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』で小学館ノンフィクション大賞を受賞。19年、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』で日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞。他の著書に『呼吸器の子』『いのちは輝く わが子の障害を受け入れるとき』などがある。