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質問責任と説明責任

 この議論はキントーン上で全社員に公開されていたので、周囲からさまざまな意見が投げかけられることになりました。イヤホンをしていると話しかけにくいのか、単に「新人のくせに生意気だ」なのか、と。そんな論点を経て、最終的にはサイボウズのビジョン「チームワークあふれる社会を創る」に沿ったアウトプットにつながるものである限り、仕事中にイヤホンをすることを許容するという結論に至りました。

 サイボウズでは「質問責任・説明責任」という考え方を大事にしています。これは、“もやもや”していることや不明な点があれば、必ず質問をすること。そして、質問を受けた人は、必ずそのことについて説明する必要があるという考え方です。

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 質問と説明が正しく行われると、ディスカッションが回りだすことになります。ツールを使ったオンラインコミュニケーションの肝は、良質な議論が展開されること。そして、その議論がオープンになっていることで、議論に直接参加していない人にも議論内容の理解が深まることです。一見オンラインで衝突が生じているように見えても、それが議論の呼び水となり、何かしらの課題を解決するきっかけになっていることが多いのです。

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100人100通りの働き方の実現のために

 この「イヤホン事件」では、新人研修中に新人が質問責任を果たし、質問を受けたメンターが説明責任を果たしたことになります。そして、周囲がその議論を見ながら新たな意見を出す。このループが回り、議論が進んだことで、新人研修でイヤホンをすることは問題ないという結果になりました。

 研修中にイヤホンをすることの表層的な是非の議論にとどまらず、各部署における仕事の本質とは何かを考えるきっかけになったのです。100人100通りの働き方を目指し、多様な個性を尊重するというスタンスは、こういった衝突を呼び起こします。ただ、それでいいのだと思います。

「多様性」や「ダイバーシティ」は、言ってしまえば「みんな違ってみんないい」を本気で実現することです。つまり、自分とは相容れない他者を受け入れることを指します。正直にいうと、とても面倒です。ただ、その面倒を乗り越えていくことができれば、チームは必ず強くなります。オンラインの衝突から逃げてはいけません。しっかりと議論することが大事です。

《働きやすさ》を考える メディアが自ら実践する「未来のチーム」の作り方

藤村能光「サイボウズ式」編集長

扶桑社

2019年6月28日 発売