1972年作品(90分)/東宝/AmazonPrime配信

 緊急事態宣言が多くの地域で解除され、外出する人も増えてきた。といっても、エンターテインメント業界の状況が以前のように戻るまで、まだ時間がかかりそうでもある。

 というわけで、今回も自宅にいたまま配信で楽しめる映画を紹介したい。

 折に触れて述べてきたが、長いことソフト化されておらず名画座で観る機会もなかなかない作品が、いつの間にか配信されていることがある。

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 今回取り上げる『影狩り』も、そんな一本である。

 これは、さいとう・たかを原作の劇画を映画化した時代劇。大名の落ち度を見つけて藩の取り潰しを計る江戸幕府は、「影」と呼ばれる忍者を全国に放つ。これに対して、各大名家は「影狩り」という忍者殲滅のスペシャリストたちを雇い、藩を守ろうとする。

 主人公は、「影狩り」のリーダー・十兵衛。演じるのは石原裕次郎だ。が、この時の裕次郎は顔がパンパンに膨れて髭面が似合わず、殺陣も軽いため、忍者を狩る凄腕の浪人役として迫力に欠ける。

 が、そんなことは気にならない。というのも、彼の相棒である日光と月光が素晴らしいからだ。豪傑キャラの日光を演じる内田良平も魅力的だが、それよりも何よりも、クールなキャラクターの月光である。演じる成田三樹夫が、とにかくカッコいい。

 顔にある大きな火傷を隠すために顔半分を覆うように垂らした前髪から覗く、鋭い眼光。日本人離れした彫りの深い目鼻立ちと白い肌。シャープなボディライン、低く響く美声と抜群の殺陣。そのビジュアルも芝居も、さいとう・たかをの劇画世界からそのまま出てきた感があり、ゾクゾクするほどニヒルだ。表情一つ変えずに忍者たちを斬っていく冒頭の殺陣や、夕暮れをバックに馬を駆る姿に、早くも心がときめいてしまう。

 そこから先も、月光の一挙一動を追うだけで幸せな気分になる。たとえば中盤の忍者に取り囲まれたシーン。全く慌てず騒がず刀を構え、その姿だけでもたまらないのだが、さらにこの時、刀の反射光で顔に一閃の光が差して、クールな眼差しが強調される。成田三樹夫の研ぎ澄まされた風貌に、ケレン味たっぷりな演出がよく合っていた。

 一度は妻子の死を思い出して心を揺るがせ、クールなだけではない切なげな一面を見せる。それでいて、すぐに立て直して女忍者を容赦なく斬り、「むごい」と責められても「むごいのが俺の身上だ」と無感情に言い放つ――。これはもう、惚れるしかない。

 あまりの魅力に、ラストシーンで騎乗した際に揺れる月光の総髪(ポニーテール)のシルエットまで愛しくなる。