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 統計学的な見地で申し上げるならば、私自身も西浦博さんのような天才的な感染症数理モデルの構築者がクラスター対策班という司令塔にいなければ、日本で感染症対策は進まず、もっと多くの感染者を出し、医療は崩壊して多数の死者が出ていた怖れは捨てきれないと思っています。そのぐらい、感染者を追いかけてクラスターを潰していく方法が功を奏し、また、日本人も自粛についてきちんと対応して一丸となってコロナウイルス第一波を乗り越えたようであることは間違いないのです。

門外漢たちが集団免疫・BCGワクチンの効果を強調

 にもかかわらず、感染症数理モデルも理解できず、西浦博さんの論文(エッセイ)の中身も分かっていなさそうな門外漢である池田信夫さんが「日本人には集団免疫がある」「(結核に対するワクチンである)BCGワクチンがコロナウイルスに効いていたようだ」などと現段階ではエビデンスのない俗説を流し、新型コロナウイルスに対する過剰反応は望ましくないなどとする主張を繰り返しています。

 検証の結果、実はBCGワクチンが効いていた、という可能性は残されています。しかし、現段階で何の根拠もなく池田信夫さんが「BCGワクチンは効く」と主張している内容が当たっていたとしても、それは何の検証も行わず、発言の責任も取らない占いような外野の意見がたまたま当たったに過ぎません。

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 もちろん、検証不能でも議論自体は必要なことです。経済をきちんと回しながら感染症対策も可能なニューノーマル、アフターコロナの社会を作っていくために必要な議論も含まれています。しかしながら、だからと言って、結果論や後講釈だけでなく、確証などどこにもない集団免疫やBCGワクチンの効果を強調してコロナに対する専門家や医療クラスタの血のにじむような努力を軽視する議論をするのは無闇な社会の分断を生み、無価値なだけでなく有害だとすら思います。

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 東日本大震災後も、福島第一原発事故によって発生した放射性物質汚染の恐怖に駆られた国民を惑わす議論がおおいに盛り上がり、いまなお不安を煽る議論が多発しておりました。今回のコロナウイルスにおいても、池田信夫さんや藤井聡さんらのような根拠の乏しい批判が放置されるようであれば、9年前のあの大事故の教訓すら日本人は活かせていないことになります。せめて、コロナ後の経済をより良くすることの議論に集中してくれればいいと思うんですけどね。