文春オンライン

根拠なく「緊急事態宣言は要らんかったんや」と言い出す知識人が増えている問題

専門性のある議論は、感染症の研究者や医師に任せましょう

2020/05/29
note

死者を少なく抑えられたのは結果論

 そして、コロナ対策の緊急事態宣言後も日本の感染症対策の緩さは常に危機感をもって報じられてきました。WHOテドロス事務局長の上級顧問で日医総研研究員の渋谷健司さんの指摘を代表として、日本の対策で本当にコロナ感染者数や死者数を抑え込めるのかは非常に疑問視されてきた経緯があります。そして、懸念を持たれるのは当然であって、日本が死者を少なく抑えられたのは結果論でもあり、日本だけが特殊だったというよりは、人口比で見れば東アジア・オセアニア諸国の中で日本は一番死者を出しています。それでも充分少ないのですが。

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 それでも、世界的に見て奇跡的に日本の対策が上手くいった理由は、早期から感染症対策のモデルを組み、検証を重ねてクラスター対策を行うというプロセスを提示した北海道大学教授・西浦博さんをはじめとした厚生労働省のクラスター対策班、データ対策を行った国立感染症研究所や、各都道府県・自治体の職員、さらには結核対策で我が国の感染症対策の最前線を担った保健所・保健師の皆さんといった関係者による、真の意味で司令塔と最前線とがうまく対策を合致させ、感染症が広がる拠点を追い、きめ細かく感染者を追い続けた体制があったからです。

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歴史ある保健所と、企業のクラスター解析

 諸外国に真似ができない対策を日本が打てた理由は、長らく日本で猛威をふるい続け、命を奪ってきた結核対策を担ってきた津々浦々の保健所にありました。予算を削られながらも、機能として維持され続けてきた僥倖こそが、日本でコロナウイルス感染拡大を一定のところで防ぐことができた大きな理由であろうと考えられます。

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https://www.47news.jp/4844929.html

 さらには、データサイエンスの観点から、アルベルト社という日本のデータ分析を主業とする企業が手弁当で感染症拡大を防ぐためのクラスター解析を担いました。携帯電話からの位置情報などを利用して500mメッシュ(四方)にどのくらい人が集まっているのか、その人たちはどこに向かい、どこで再集合するのかを予測して、文字通り感染の疑いのある人の行動を予測しながら、感染の疑いのある人がどのようなところで再感染させてしまうのかを機動的に確認する仕組みを構築して、個人情報を適法に扱いながら再感染の拡大を防いできました。

厚労省新型コロナクラスター対策班の分析支援を本格稼働 アルベルト #医薬通信社
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