世界的にブームになっている韓流ドラマ「愛の不時着」で描かれる北朝鮮生活は、どこまで事実なのか。韓国で最も有名な北朝鮮専門のジャーナリストで、「中央日報」記者のイ・ヨンジョン氏に聞いた。(前編はこちら)
(*以下の記事では、ドラマの内容が述べられていますのでご注意ください)

北朝鮮に不時着した韓国有数の財閥の令嬢・セリ(左)と、北朝鮮の軍人、ジョンヒョク(Netflixオリジナルシリーズ『愛の不時着』独占配信中)

Q5 セリが出かける「市場」の実態とは?

 日本の終戦直後の闇市を思わせる「チャンマダン」での取引が、北朝鮮ではいまだに盛んに行われている。北朝鮮に不時着した韓国有数の財閥の令嬢・セリ(ソン・イェジン)も出かけることになるチャンマダンとは、いったいどんなところなのか?

「現在、北朝鮮全域で280~300あまりのチャンマダンがあります。中国国境に近い地域ほど大規模な市場が形づくられていて、両江道恵山市が最も規模が大きい。『苦難の行軍』と呼ばれた1990年代の景気低迷期に、住民が市場で金になる品物を売ったのが本格的な始まりでした。かつてはチャンマダンでの取引は違法だったが、金正恩時代に入って合法化され、政府が建物を建てて、賃貸料を受け取っている。

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 チャンマダンには北朝鮮や中国の製品だけでなく、中国経由で密かに持ち込まれた韓国や日本の製品も裏で取引されている。日本製品の中では医薬品と化粧品、ソニーのビデオカメラ、録音機などの電子製品が人気を集めています」(イ記者、以下同)

 ドラマでは、セリがチャンマダンの質屋に高級時計を預けるのだが、ブランドではなく時計の重さだけを基準に金額を決められるシーンがある。

「北朝鮮の銀行には現金が不足しているので、現金を借りるために銀行ではなく質屋を訪れる住民も多い。ちなみに、時計の重さを量って金を貸す場面はドラマの演出で、事実ではないと思います」