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『アシュラ』は、発表と同時に掲載号の「少年マガジン」が神奈川県で有害図書指定され、回収騒動にまでなった。飢餓から人肉を喰らい、我が子(それが主人公のアシュラ)までをも食べようとする母親の描写が問題視された。どちらも現在の新型コロナ禍に通じる「経済が大事か? 命が大事か?」をテーマにした作品で、改めてジョージさんの作家としての先見性に驚かされる。

『アシュラ』電子書籍版の書影。

 さらに騒動の渦中、’71年の「週刊少年サンデー」にてこれまた衝撃作『告白』を連載スタート。なんと、主人公はジョージさん自身で“人を殺した過去がある”という文字どおりの“告白”漫画で、読者を唖然とさせた。さらに翌週には「先週の告白は嘘」と告白し、読者は二度びっくり。これなどは『銭ゲバ』と『アシュラ』の2作で実感した、“社会・世間に対する漫画の影響力”をジョージさん自身が試すために行った“壮大な社会実験”に思える。『告白』と同時にすべての連載を終了させたジョージさんは引退を宣言。放浪の旅に出た。

父として読者 = 子供たちに語りかけた『ザ・ムーン』と『浮浪雲』

 もはや漫画が、駄菓子やお子様ランチの域を出て、小説かそれ以上の影響力を持つメディアに成長したことを知ったジョージさんは、以前とは違う形で“子供たちに伝えたい漫画”の連載を再起動させた。ひとつが、彼の経歴には珍しい巨大ロボット漫画『ザ・ムーン』(’72年)、もうひとつが先述の青年誌初挑戦の作品『浮浪雲』である。

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『ザ・ムーン』は、謎の大富豪・魔魔男爵が選んだ、汚れなき魂を持つ9人の少年少女たちに、自らの財力と威信をかけて開発したロボット = ザ・ムーンを与え、連合正義軍(時代を感じさせるネーミング)や春秋伯爵ら平和な生活を脅かす存在と戦うよう命じる……という物語で、ジョージ作品特有のクセは垣間見せつつ、血わき肉躍るロボット漫画として展開した。

『ザ・ムーン』電子書籍版の書影。

 衝撃だったのは最終回。ケンネル星人の放った宇宙カビが地球上に蔓延。人類を死滅させるそのカビを駆除すべく、主人公の少年少女たちが東奔西走するが、ひとりまたひとりと倒れ、明確な結末が描かれぬまま主人公の少年の絶叫で幕を閉じる。当時はこのラストに、突き放された印象を受けたが、今思い返すと「さぁどうする? この物語をハッピーエンドにできるかどうかは、これからの君たち次第だぞ!」との、“父としての”先生の言葉が聞こえてくるようだ。