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広瀬アリス&すずが登場 豪華すぎるNHKリモートドラマ『Living』が見せた“超短編の鋭さ”

広瀬アリスと広瀬すずの対照的な女優性

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2020/06/05
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 制作発表が5月19日、第1話・第2話放送が5月30日、制作発表から放送まで10日ほどしかないのも異例である。これは本格的な坂元裕二作品とは別枠で考えるべき、軽いスタジオコメディショーなのではないか、「とりあえず制約の中で出来ることをやってみた」程度の内容になるだろうから、広瀬姉妹、そして同日放送される第2話にキャスティングされた、同じく兄弟俳優である永山瑛太と永山絢斗というキャスティングの豪華さを楽しみにして、内容にはそこまで過大な期待をしない方がいいのではないか……という放送前の僕の懸念はしかし、見事に覆された。坂元裕二脚本による『Living』は、単にキャスティングの話題性を超えた、短編として驚くほどの完成度を持った作品だったのだ。

鼻でハーモニカを吹くのが得意な、ネアンデルタール人の姉妹

 第1話で、絶滅に追い込まれたネアンデルタール人が、ひそかに現代社会で我々の中に混じって暮らしている、という設定を広瀬姉妹が演じた物語は、部屋の中から一歩も移動しないにも関わらず、会話の端々から2人の置かれた状況、そして2人の姉妹の性格の差が表現された見事な脚本だった。人種や民族という単位での差別や対立が世界的に焦点となる中、『ホモサピエンスとネアンデルタール』という一回り大きなスケール構図を持ってくる批評性、それを15分という短い時間の中で説明的にならず流れるように観客に見せる手腕には驚くしかない。

 単に脚本、構成の妙だけではなく、第1話、トップバッターで観客を引き込む役割を背負った広瀬姉妹の演技には、純然たる2人だけの会話劇をエンターテインメントに昇華するグルーヴ感があった。ドラマ企画の1ヶ月前に配信されたインスタライブでもそうだったが、会話のスピード、声、タイミングそのものにジャズセッションのような音楽感があり、聴いているだけで惹き込まれてしまうのだ。ホモサピエンスというマジョリティに囲まれて暮らす、滅びゆくマイノリティとしてのネアンデルタール人、だがその姉妹の中に渦巻くタフでしたたかな生命力は、第1話の導入として視聴者を引き込むことに成功していた。

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広瀬アリス×広瀬すず リモートドラマ「Living」第1話より 筆者作画

 放送後にツイッターに投稿された広瀬アリス本人のツイートによれば、鼻でハーモニカを吹くなどの演出は脚本そのままであったものの、その後からラストにかけては広瀬姉妹のフィーリングに合わせたアドリブがかなり盛り込まれているとのことだ。坂元裕二の繊細な脚本が楽譜だとしたら、実際の映像の中で広瀬姉妹の演技による『演奏』は、エンターテインメントとして視聴者を引き寄せる、トップバッターを務める第1話の出演者として見事な内容になっていた。

「月と太陽のよう」対照的な広瀬アリスと広瀬すずの女優性

 ところで、広瀬アリスと広瀬すずの顔は、実はよく似ている。双子のようにそっくりではないにせよ、写真の撮られ方によってはこれが姉なのか妹なのか一瞬判断に迷うこともあるし、広瀬すずの出演作が放送されると「今の表情はお姉ちゃんにそっくりだった」という声がSNSからたびたび上がる。しかし、そうした顔の造作の近似にも関わらず、2人の女優のイメージはあまりにも違う。正反対と言ってもいい。

広瀬アリスと広瀬すず ©文藝春秋/AFLO

 倍賞美津子・倍賞千恵子や、石田ゆり子・石田ひかりをはじめ、日本芸能史には数々の姉妹女優がいる。共にスターとなった姉妹、甲乙つけがたい美貌と演技力で評価された姉妹は多いが、しかし広瀬姉妹のように似ているにも関わらず対極のイメージを纏った、月と太陽のように対照的であり、場合によっては互いに相手のあり方へのアンチテーゼですらあるような姉妹女優はかつていなかったのではないかと思う。

 2人の姉妹女優の演技を対比する時、共に天海祐希と共演した、映画『チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』とTVドラマ『トップナイフ −天才脳外科医の条件−』を比較するのがわかりやすいかもしれない。