1ページ目から読む
3/4ページ目

 映画『チアダン』で主演した広瀬すずは、弱小チアダンス部を全米優勝まで導くエースの役を演じる。だがチアダンスという題材には、他のスポーツのようにホームランボールがフェンスを越えて青空に吸い込まれたり、ストップウォッチが新記録を表示したりという観客に分かりやすい才能の目安が一切ない。広瀬すずが演じる主人公の少女が特別なエースであることは、広瀬すずの存在そのものが表現し観客に納得させるしかないのだ。そして実際に広瀬すずは、中条あやみや山崎紘菜というモデル級の長身メンバーや、福原遥のようなアイドル的美少女に囲まれながら、映画の中で特別な中心的存在としての輝きを放っている。それは共演した中条あやみが、映画への姿勢も含めて『これが主演というものかと思った』と後のインタビューで語った「主演型女優」としての才能だった。

『チア☆ダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話』(DVDジャケットより)

 それに対し、姉の広瀬アリスがドラマ『トップナイフ −天才脳外科医の条件−』で演じたのは、人生にも仕事にも不器用な新人専門研修医の役である。

『チアダン』で広瀬すず演じる主人公の才能を見出す鬼コーチを助演した天海祐希は、『トップナイフ』では主演女優として天才脳外科医を演じる。広瀬アリスは、その天海祐希ら歴戦の天才脳外科医たちの才能に驚き、人間の脳という未知の領域に迷い翻弄され、失敗と挫折を繰り返しながら少しずつ成長していく新人、視聴者の視点を共有する役を助演女優として演じる。広瀬アリスの戸惑い、驚き、悩む演技によって、視聴者は天海祐希ら天才脳外科医たちの非凡さ、脳という世界の奥深さを感じることになる。

ADVERTISEMENT

『トップナイフ -天才脳外科医の条件-』(日本テレビより)

「ファーストアクション型女優」と「リアクション型女優」

 つまり、広瀬すずは自ら能動的に動いて周囲にハリケーンを巻き起こす「ファーストアクション型女優」であり、姉の広瀬アリスは物語や共演者の巻き起こす風に翻弄され、暴風の中で両手を広げることで物語のハリケーンの大きさを表現する「リアクション型女優」の演技を得意とするといえるかもしれない。

 能動的に自分自身が輝いて物語を牽引する広瀬すずと、相手を受け止め反応する演技で物語や共演者を輝かせる広瀬アリス。サッカーやバスケであれば広瀬すずは前線速攻型の点取り屋であり、広瀬アリスは中盤から守備までパスを回す、かつてオシム監督が言った「献身的に水を運ぶ選手」ともいえる。2人の姉妹女優が同時期にこれほど映画ドラマを席巻しているにも関わらず、競合したり役を取り合うイメージがないのは、このスタイルの違いもあるのかもしれない。