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広瀬アリス&すずが登場 豪華すぎるNHKリモートドラマ『Living』が見せた“超短編の鋭さ”

広瀬アリスと広瀬すずの対照的な女優性

CDB

2020/06/05
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 メイクを少し変えれば見間違うほど似ている2人の姉妹女優が、なぜこれほど対照的な演技スタイルを持つことになったのかはわからない。だが、積極的に会話を仕掛ける広瀬すず演じる妹、それを受けて展開する広瀬アリス演じる姉という物語の構図は、2人の資質を的確に判断した坂元裕二脚本の当て書きのように本人たちにフィットしていた。広瀬アリスは収録後のコメントで「一度テストをやった後、ここはちょっとテンポアップしたいなって思ったところをお互い自然と修正していて、あぁやっぱり通じるんだなって。安心感がすごかったです」と語っているが、確かに会話のスピード感と呼吸、そして物語で見せた、姉妹の鮮明なキャラクターの違いは、役作りに時間を取ることができない収録状況の中で、広瀬姉妹だからこそ自然に作れた空間なのかもしれない。

未来を予言してたかのように不気味な第2話

 対照的に第2話、永山瑛太と永山絢斗の兄弟が演じたのは、不吉な近未来に暮らす孤独な2人の兄弟の物語である。その部屋の外では、戦争や対立が起こり、世界が激変していることを会話の端々から観客が感じとることができた(この会話をいかにも説明的にならず、それ自体が詩のような響きのある瑞々しい言葉で観客に伝えていく坂元裕二脚本の冴えは圧巻だと思う)。「ある日、匿名で書き込まれていたネットの名前が突然全て実名になったら戦争が起きた」という会話は、1ヶ月前に書かれたにも関わらず、リアリティショー『テラスハウス』をめぐる誹謗中傷、出演者の死によるSNS規制の動きを予言したかのように不気味だった。

 第1話の広瀬アリス・広瀬すずがお互いのキャラクターを生かして、なかばプライベートと地続きのようなフリートーク感を漂わせていたのに対し、永山瑛太と永山絢斗はあえてお互いの「らしさ」を消し、まるで双子のように似通った、人工的で無機質な近未来の兄弟を演じていた。こちらも坂元脚本のテーマに適応した見事な演技だったと思う。

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永山瑛太×永山絢斗 リモートドラマ『Living』第2話より 筆者作画

リモートドラマ『Living』に満ちていたのは映画や演劇の匂いだった

 往々にしてカメラを固定したリモートドラマはネット配信的、あるいはショートコントのような映像感になりがちなのだが、『Living』に満ちていたのは映画や演劇の匂い、この緊急事態下でまさに苦境にあるミニシアターや小劇場が公開し支えてきた、志ある短い作品たちの匂いだった。たった15分、室内を出ないセット、2人だけの出演者、短い制作期間(かつて朝の連続テレビ小説『あまちゃん』を手がけ、今回のリモートドラマも企画したプロデューサー訓覇圭氏によれば、企画が立ち上がったのは4月下旬、ちょうど広瀬姉妹のインスタライブがあった時期である。そこからキャスティング、脚本、撮影、放送まで1ヶ月で仕上げたスピードには驚くしかない)という条件の中、短いからこそ切れ味の鋭い短刀のような『超短編』を仕上げたスタッフ、坂元裕二脚本や俳優陣の演技には、制約状況を逆手にとってミニシアター・小劇場文化の豊かさをNHK地上波という日本最大のメディアで視聴者に示すような前衛性があった。

 坂元裕二自身も、今回の劇場閉鎖により東京大阪で上演するはずの朗読劇を初日から千秋楽まで全て中止に追い込まれているのだが、今回のリモートドラマは本来なら演劇という形式に注ぐはずだったエネルギーが社会的状況によってテレビに流れ込み、それによってかえって多くの視聴者に演劇的なもの、ミニシアター映画的な表現の底力を見せつけるような作品になったと思う。

 第1話、第2話は6月6日(土)午前1時から再放送され、テーマを兄弟姉妹から夫婦に移し、中尾明慶×仲里依紗、青木崇高×優香(声)の共演による第3話・第4話はその夜、6月6日の夜11時30分から放送される。これほど制約された、短い期間と放送時間でも、これほどの作品が作れたという、緊急事態宣言下のひとつのメモリアルになるシリーズだと思う。見逃した方にもぜひお勧めしたい。

広瀬アリス&すずが登場 豪華すぎるNHKリモートドラマ『Living』が見せた“超短編の鋭さ”

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