清田隆之が『女性リーダーが生まれるとき 「一皮むけた経験」に学ぶキャリア形成』(野村浩子 著)光文社新書

 野村証券、JR東日本、キリン、楽天、JAL、高島屋、パナソニック――。本書には名だたる企業で実績を残してきた女性たちが登場する。新規事業の立ち上げに奔走し、海外企業とタフな交渉を繰り広げ、会社が不祥事を起こした際は矢面に立って謝罪会見にのぞむ。その姿はさながら「情熱大陸」や「プロフェッショナル」のような迫力だ。

 女性総合職、女性幹部、女性初のCEOと、彼女たちの役職や実績には「女性」の文字がついて回る。それは日本がジェンダー・ギャップ指数で153カ国中121位の国であり、〈国会議員の女性比率は約10%と世界最低水準。女性の役員比率も5.2%〉という圧倒的な男性優位社会だからだ。そんな中で女性リーダーはいかに生まれたのか。

 ある女性は〈朝6時から夜9時過ぎまで、トイレに立つ暇もないほど〉の激務に耐え、ある女性は〈毎日朝7時に出社して、現場のスタッフ一人ひとりに声をかける〉ことで信頼関係を構築していった。社長に直談判して新規事業を立ち上げた女性もいれば、数字とロジックを突き詰めることで説得力を獲得していった女性もいる。もちろんこれらは男女関係ない話だが、彼女たちを取り巻く環境とセットで考えるとより凄みが増す。〈総合職の同期300人のなかで女性はわずか7人〉というマイノリティ性。〈学校の行事に来てくれないのはママだけだよ〉という子どもの言葉。〈昇進昇格する度に「あの人は女性だから」「女性枠でしょう」と陰でささやかれる〉ことの悔しさ……。女性特有の壁や苦労を表す“ガラスの天井”や“スティッキー・フロア”という言葉もあるが、そんな環境下で信頼と実績を勝ち得ていった女性たちの姿が本当にカッコ良い。

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 しかし、これは「スーパーウーマンの成功譚」で終わらせてはならない話だ。本書の問題意識もそこにある。政府が「女性活躍」を掲げているにもかかわらず不平等が是正されないのはなぜなのか。なぜ仕事と子育ての両立に悩んでキャリアを中断する人のほとんどが女性なのか。ダイバーシティやインクルージョンの重要性が経済成長やリスク管理の観点からも叫ばれている中で国や企業が本腰(例えば「クオータ制」導入のような)を入れて取り組もうとしないことの根底には、おそらく“特権”を手放したがらない男性たちが関係している。直接言及されているわけではないが、本書の裏テーマには間違いなく男性特権の問題がある。

 ドイツ、アイスランド、台湾、ニュージーランドと、コロナ対策で評価を上げた国のリーダーに女性が多いことが話題になった。男女二元論で語れる問題ではないが、本書で語られていることとそれは確実に地続きだ。世界的な地殻変動が起きている今、自分が拠って立つ地面のことを知るべく、男性こそ読むべき一冊ではないかと強く思う。

のむらひろこ/1962年生まれ。ジャーナリスト、東京家政学院大学特別招聘教授。「日経WOMAN」編集長、日本経済新聞社編集委員などを務める。著書に『定年が見えてきた女性たちへ』。
 

きよたたかゆき/1980年、東京都生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。近刊『さよなら、俺たち』。