ーー “耳野郎”という人物を演じることになった時、どういう人物をイメージされたのでしょう?
「盗聴者というと、みなさんやはり拒否感がありますよね。耳野郎を演じるにあたって真っ先に思い浮かんだのが、ドイツ映画『善き人のためのソナタ』でした。これはベルリンの壁崩壊前の監視社会だった東ベルリンが舞台になっていて、主人公は国が危険人物とみなした人物を盗聴する役でした。
ところが、盗聴するうちにその対象者である夫婦に共鳴してしまうんですね。盗聴する側は盗聴しながら葛藤する。私が演じた耳野郎もそんな存在ではないかと思いました」
盗み聞きするため、背中が少し丸まっていて猫背
ーー役作りのために特にされたことはあるのでしょうか。
「『盗み聞きするため、背中が少し丸まっていて猫背』。台本には、耳野郎の外見はこんな風に描写されていました。最初は少し芝居がかった表現でドラマでは不自然ではないかなあと思ったのですが、演じてみると、なるほど、自然と肩がすぼまって体が曲がってきました(笑)。
耳野郎は10代からこの仕事についていて、なによりも罪悪感が心の奥底に染みついている。その罪悪感に自身が圧倒されている人物でした。そんな雰囲気を醸し出せるようにと思いながら、演じました。
ーー北朝鮮の方言も見事に駆使されていました。
「北朝鮮の方言は、2年前にたまたま北朝鮮の方言を使った芝居に出演しまして、その時に脱北者の方と会って、レッスンを受けました。もう忘れているかなあと思ったのですが、話し出したらまだその感覚が残っていて、今回はあまり苦労せずにできました。それでも、撮影現場では北朝鮮の方言担当の先生(脱北者)が常にいて、シーンごとにチェックしてもらっていました」
印象に残っているのは「ヒョンビンさんとのあのシーン」
ーー耳野郎を演じられて印象に残っているシーンはありますか?
「耳野郎には転機が2回あります。ひとつめは、ヒョンビンさん演じるジョンヒョクに、ジョンヒョクの兄を死に至らしめたことを告白するシーン。このシーンは、耳野郎がそれまで表現できなかった苦悩と懺悔、葛藤が一気に噴き出すシーンで、ジョンヒョクは兄の死の秘密を知って悲しみが押し寄せてくる。
ふたりとも苦痛を感じながら、悲しみに包まれる、韓国では『感情シーン』といわれる、感情をぶつけ合う場面でした。
ヒョンビンさんとはこのシーンの前に話は特にしなかったのですが、私が感情をこめている時にじっと待ってくれまして、そんな配慮がとてもありがたかったです。こんなことができるのは相手への信頼と共感があるからこそですから。
そして、ふたつめはセリを追いかけていったジョンヒョクを探すため、北朝鮮兵士4人と共に韓国に入国するシーンです。それまで抑えられていた耳野郎の本能的に愉快な部分が、天真爛漫な北朝鮮兵士と行動することで呼び覚まされてどんどん変っていく。この韓国でのシーンの数々は忘れられません。実は韓国には入国できないとも思っていたので、感慨ひとしおでもありました」