6月3日に再開園した札幌市・円山動物園。オランウータンの「レンボー」と「弟路郎」との間に「レイト」が生まれたのは今年2月のこと。そこには人間とオランウータンとの知られざる物語があった。(全2回の2回目/#1を読む)
「本当に映った!」奇跡の瞬間
こうして、様々な検査が可能になったことで、レンボーの生理周期を正確に把握し、発情・排卵に合わせて弟路郎と同居させることができたという。これまでの出産では、レンボーと弟路郎を長期間同居させるしか方法がなかったが、今回はタイミングを見計らって、わずか4日間の同居で交尾が終了し、その2週間後、尿検査により妊娠が確認された。
いよいよ超音波検査の出番だ。
妊娠10週目を迎えた昨年8月2日。境が超音波のプローブをお腹に当てると、レンボーは当然のようにこれを受け入れた。境の手と柵を掴むレンボーの手の間には、万が一に備えて李の手が添えられている。さらにもう一人の飼育員も立ち会って、3人で固唾をのんでモニターをのぞき込むと、ほどなくエコーが捉えた画像が描出された。次の瞬間、その場は興奮で沸き立った。
「あ、見えた!」「本当に映った!」「信じられない!」
そこには、丸い形をした小さな「胎芽」がしっかりと映し出されていた。
「一言でいえば、奇跡でした」と境が振り返る。なぜこれが奇跡なのか。
まず超音波の特性として、液体の中は通るが、気体に当たると反射してしまい対象物を描出することはできない。だから、人間の場合、胎児が小さいうちは、腸内ガスの影響を受けないようにするために経膣プローブを膣内に挿入して撮影する。ところがレンボーの場合は、膣内ではなく、お腹側から当てるので、通常であれば、腸内ガスに跳ね返されてしまい、胎児の姿を捉えることまでは難しいはずだった。
「それがなぜ映ったかというと、子宮の表側にある膀胱内に尿が溜まっていたために、超音波が液体を通って、子宮まで届いたからなんです。人間の場合でも胎芽の描出ができるのは妊娠8週目ぐらいですから、10週目でそれができたのは、奇跡としかいいようがない。学術記録としても大変貴重なデータになります」(境獣医師)
その後、李と境は、胎内における胎児の動画撮影にも成功することになる。妊娠中の胎内の超音波による動画撮影にいたっては、