「人間が彼らの“生”に対して責任を果たす必要がある」
当然のことながら、基本的に単独生活を営む野生のオランウータンと違って、動物園のオランウータンには一人で生きていける環境が整ってはいない。
「レンボーが動物園においてオランウータンという種としての命を繋いでいくためには、我々人間が彼らの“生”に対して責任を果たす必要がある。それは、彼らを『生命として尊重する』ということなんだと思うんです。レンボーは生まれたその日から、赤ちゃんに“生”きる術を教えようとしているわけですから」(同前)
その深夜の出来事を他の飼育係に伝えても、「そんなことがあるのか」となかなか信じてもらえなかったという。「でもね」と李はきっぱりとこう語った。
「レンボーたちは飼育下という状況で、次の時代に命を繋いでいくために、なすべきことを力強く行っているんです。彼らに一番近くで接する飼育者は、信頼に値するものでなくてはならない。飼育下だからこそ気づけることに僕たちが気づかないと申し訳ないじゃないですか。やっぱり命を預かっているわけですから」
「レイト」お披露目の日
休園期間中の5月20日、赤ちゃんは、新元号にちなんで「レイト」と名づけられた。
こうして様々な出来事を経て、冒頭の再開園(前編)を迎えたのだった。
この日、レンボーはレイトを連れて、屋外飼育場の柵の一番上まで上って、多くの人が詰めかけている様子を自分の目で確かめているように見えた。
その後は、次々と訪れる来園者に対して、まるでお披露目するかのようにガラスの際まで、レイトを抱えて連れてきては、そこで長い時間を過ごしていた。
「良き日ですね、今日は」その様子を見守りながら、李が呟いた。
動物園とオランウータンと人間。その関係性の中で新しい時代に新しい命が繋がっていく。
撮影/伊藤 昭子
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