抗争の凄惨さを伝えるワイドショー
まだ肖像権やプライバシー保護の観念が出来上がっていない時代だったこともあって、レポーターを恫喝する姿、機動隊と衝突する模様、ガサ入れの様子、そして各組長や若い衆の談話などが、何の修正もなくそのままブラウン管を通して全国に配信された。中には銃撃され路上に倒れ込んだ死体の映像まであり、殺された組員の着ていたシャツの模様は、流された血の色でいっそう派手に装飾され、抗争の凄惨さを際だたせた。
ワイドショーなどでは、ヤクザ情報に詳しい多くのジャーナリストがスタジオに呼ばれ、事件に関する質問を受けた。その質問はあきれるほど低レベルで、まるで誘導尋問である。ジャーナリストたちはその術策にはまり、ヒステリックな感情論を煽っていた。誘導に引っかからなかったのは、溝口敦と野坂昭如くらいだろう。
――今回野坂さんはこの危ない地帯の視察にいかれたんですよね。
「今視察って言ったけど、そういうことじゃなくてね。友達や知り合いが今問題になっている辺りにいるもんですからね、よく話を聞いたり、近くの商店街を歩いたりしただけですよ」
――歩いてみてどうですか。やっぱり危ない?
「(事務所のある)同じフロアにいれば多少はあるでしょうけど、周り近所は別段、マスコミが報じるように恐ろしいから店じまいするとかいうことはまったくないです。(その前にレポーターが『抗争が続いて飲食店が営業できないなど、一般人に経済的な損失が出ている』と前振りしていた)。山口組と一和会が拮抗している地域もあるんですね。そういうところでもなにもビクビクしてることはないし、ちゃんと飲み屋は夜遅くまでやってるし、みんなカラオケで歌ってますよ」
司会者はスクープの興奮を抑えきれなかった
ある番組では生放送の最中に山口組山健組に銃弾が撃ち込まれ、出演者が一気に浮足だった。これまでテレビに出演した解説者は揃って「山口組は山健組、一和会は加茂田組が主力部隊」と言っていたにもかかわらず、まったく動きがなかったからである。その上、この事件では山一抗争で初めて一般人が流れ弾で負傷した。
「つ、ついに一般人に負傷者が出ました!」
司会者の興奮に歪んだ顔が印象的だった。