「嘘をつかない。裏切らない。ぼくは具体的なだれかを思って、本をつくる。それしかできない。」――これからの働き方について思いを巡らせるとき、『古くてあたらしい仕事』(新潮社)は、それぞれの人にとってのヒントが見つかるのではないかと思える本だ。31歳ではじめた転職活動で50社連続不採用、従兄の死をきっかけに33歳でひとり出版社「夏葉社」を立ち上げ、10年以上続けてきた著者の島田潤一郎さんが考える、「孤独を支える仕事」のありようとは。(全2回の1回目/#2に続く)

あしたから出版社』(晶文社)の続編ともいえる島田さんの著書、『古くてあたらしい仕事』(新潮社)

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コロナの2カ月で考えたこと

――コロナ禍による緊急事態宣言が発令された約2カ月間は、書店が開いていない非日常でもありました。もちろんAmazonなどの大手通販サイトやネット書店では売り買いできたわけですが、島田さんがお一人で経営する夏葉社にとってはどんな2カ月だったでしょうか。

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島田 正直、経営的に大打撃を受けて困っているというわけでもないんです。取次を介さない「直取引(ちょくとりひき)」の配本をしているものについては、コロナ以前とそんなに売り上げは変わらないし、夏葉社の本を大事に扱ってくれる個人書店や読者とのつながりは、より深まった感じが大きいです。

――直取引は今、どれくらいの割合なんですか?

島田 創業当初は9割以上が取次経由で書店に本が届いていました。でも10年目を迎えて、吉祥寺にある夏葉社の事務所から直接書店に発送する直取引が半分近くになり、一時的には取次経由を上回ることもありました。

――産地直送な感じですね。

島田 弊社と、まさに個人的なお付き合いをしているような個人書店は、緊急事態下でお店を閉じながらも、新しい経営基盤を模索しようと積極的だったと思います。例えば、荻窪の書店「Title」。ここを経営している辻山良雄さんが書かれていましたけども、4月の売上はいつもと変わらなかったと。ウェブショップに連日多くの注文が来ていたようでした。大手通販サイトでも買えるけど、好きな個人書店がSNSでおすすめしている本を注文して、それが届くのを待つ。そんな本屋さんとお客さんの関係がより広がった時期でもあったと思うんです。

島田潤一郎さん ©shinchosha

――夏葉社と同じく「ひとり出版社」でもある里山社を中心に「全国の通販で買える個人書店一覧」が早々にまとめられたりもしましたね。

島田 そういった動きも含めて、書店と読者と出版社の関係が決定的に変わりうるんじゃないか、そんなことを考えた2カ月でもありました。

読者から届く、長い長い手紙

――決定的な関係の変化とは。

島田 読者は消費者ではない、読者も我々出版社や書店と対等なプレイヤーであるということです。作家がいて、出版社があって、取次、書店があって、読者に届く――いわば川下にいる読者にモノを渡すという構図が従来のものだったと思うんです。でも、ここ数年感じていることは、読者と書店は対等であるし、作家と読者も対等である、もちろん出版社と読者も対等だという「共存関係」が生まれはじめているんじゃないかと。今回のコロナで見えたのは、読者、お客さん側が自発的に書店や版元を助けようとする動きでした。

 

――本の生態系をめぐる共存関係という感じ。

島田 そうですね。この2カ月、読者から手紙をもらうことも増えて。しかも、長い長い手紙をもらうことが増えました。ぼくの『古くてあたらしい仕事』への感想もいただきました。