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出版社だけど、「20代のお金がない頃に救われた」ブックオフ本をつくる理由

夏葉社・島田潤一郎さんインタビュー #2

 吉祥寺に事務所を構え、ひとりで出版社を営む「夏葉社」代表の島田潤一郎さんは、「一対一の手紙のような本をつくりたい」という思いで、10年以上会社を続けてきた。新しいレーベル「岬書店」では「新古書店」ブックオフへの8人の思いを集めた一冊を編んだばかり。電子書籍やインターネットとの付き合い方、本にとって本当に怖い存在とはなにか。島田さんに話を聞きました。(全2回の2回目/#1から続く)

島田潤一郎さん ©shinchosha

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ブックオフ本をつくる理由

――昨年、夏葉社とは別レーベルで「岬書店」を立ち上げられました。もちろんこれも島田さんひとりのプロジェクトですが、どうしてまた「新レーベル」をスタートさせたんですか?

島田 夏葉社の仕事は「丁寧に長く読み継がれる本をつくる」ということ。年3冊刊行という、じっくり構えたペースで、どの出版社も手をつけてなくて、かつ、時代に合ったいい本を復刊したり、あるいはオリジナル企画による一冊をつくろうとしてきました。この姿勢を崩すつもりは全くないんですが、10年やってきて、夏葉社自体のファンもありがたいことに増えてきて、正直プレッシャーになってきたところもあるんです。ちゃんとした仕事をしなきゃって(笑)。それで、個人的にもっとフットワーク軽く仕事をしてみたい、そして誰もやらない企画をどんどん本にしてみたいと思って。

岬書店の3冊目、『ブックオフ大学ぶらぶら学部』

――そのインディーズレーベル最新作が『ブックオフ大学ぶらぶら学部』。8人のブックオフヘビーユーザーがそれぞれの視点で思いを綴った一冊だそうですね。

島田 ぼくは、20代のお金がない頃にずいぶん救われた場所ですし、ブックオフについてはたくさん語りたいことがある。でも出版社をやっている身としては、正面切って語ることにフタをしてきた部分があるんですよね。ただもうそろそろ、ブックオフを語ってもいい時期なんじゃないかと勝手に(笑)。そんなふうに、思いついたもの、面白そうだと自分で思ったものにどんどんゴーサインを出して、1年で5冊くらい出していきたいなって思っています。ブックオフ本と同時に、もう一冊別の本『本屋さんしか行きたいとこがない』も出る予定です。

 

――夏葉社とはずいぶんキャラクターが違ってきそうですね。

島田 そこはもう、スピード感を出して、新しい空気を自分に入れてって感じです。本の企画だけじゃなく、流通についても実験的なことをやってみようと思っています。岬書店の本は全て直取引で、取次を介さず、直接書店に配本しています。こういう時期ということもあって、岬書店から出た『本屋さんしか行きたいとこがない』については書店に対する「応援企画」として、掛け率をめちゃくちゃ下げようと思っています。

岬書店の2冊目『のどがかわいた』は、フリーペーパー『詩ぃちゃん』を発行する大阿久佳乃さん初めての著書。

本の流通について考えていること

――夏葉社では書店との直取引が、年々増えているそうですが、現時点で、島田さんが本の流通について考えていることとは、どんなことでしょうか。

島田 うちはJRCという取次を介して、JRCからトーハン、JRCから日販、JRCから楽天というふうに本が流通していくんです。つまり取次が2回はさまって、書店に届く。返本される時も同じルートを辿って帰ってきます。そうすると、カバーがついていない本だと、8割から9割、もう売り物にできないくらい傷んで戻ってくるんです。全国の様々な本屋さんに配本しようと思うと、自分だけでは到底さばけませんから、取次の力を頼るしかありません。でも、本が汚れて戻ってくるというのは、作り手としてはやるせないというか、「委託商品をもっとちゃんと扱ってよ」という不満をどうしても抱いてしまうんです。

夏葉社の1冊目『レンブラントの帽子』、2冊目『昔日の客

――ちなみに今、夏葉社の本の返本率はどれくらいなんですか。

島田 10%から15%くらいです。少ないほうですけど、もっと徹底して、将来的には返本率ゼロにできないかなって思っているんです。長期的な視野で売ろうという姿勢を極めれば、取次を介しても返本ゼロにできるんじゃないかと。売れるか売れないかわからないけど、とりあえず書店に置いてもらおうという営業の仕方をせずに、この書店には2冊、ここには3冊と細かく刻んでいけば、例えば初版2500部の作品を長い時間かけて売り切ることができるような気がしているんです。そしてもっと理想を言うと、流通の過程に関わる人が丁寧に本を扱ってくれていると強く思えるようになれば、デリケートな紙を使うなど、もっと本作りにお金をかけられるようになるかもしれない。