お笑いコンビの「アンジャッシュ」渡部建が、15歳年下で女優・モデルの佐々木希と結婚し、第1子が生まれた後も、複数の女性と関係を持っていたことが報じられた。美しい妻がいながらも、なぜ男性は不倫に走るのか。作家で社会学者の鈴木涼美さんが考察する。
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不倫中の人や不倫願望がある人へ
マイケル・ダグラスの『危険な情事』は、美人で明るい妻と可愛い娘がいる弁護士が、妻子が留守にしていた週末、ちょっとした火遊びのつもりで金髪の妖艶な女と「大人の割り切った関係」を持ったら、向こうは全く割り切っておらず、その上ものすごく思い込みの激しいメンヘラで、別れようとすると手首を切るわ、会社や家にしつこく訪ねてくるわ、ペットを殺すわ、車を燃やすわで、次第に家族にまで危険が及ぶようになる、という、不倫好きの人が見ると世にも恐ろしいサイコホラー、不倫嫌いの人が見るとあまりにも自業自得なザマーミロな映画だ。不倫中の人や不倫願望がある人は背筋が凍るのでぜひ見ると良い。
男性目線で描かれているので、不倫金髪女は完全に狂気じみているのだが、その台詞で、「自分だけ楽しんで都合がいいわ」というものがあって、それは端的に不倫男のずるさを表している気がする。結婚生活を完璧に維持することを前提として不倫する男は、この「自分だけ楽しんで都合がいい」状態をあまりに無自覚に享受した時に破綻することが多い。先日、多目的トイレで安上がりの浮気を重ね、週刊誌に暴露されたグルメ芸人もまたその類型だろう。何を犠牲にしているのかの意識もなく、自分の理想郷を実現するために妻や複数の女を巻きこんだツケはいつも、自分だけではなく愛している家族や尊敬する仕事仲間も払っていくことになる。
今回の不倫劇は典型的なものである
さて、そのグルメ気取りのわりには不倫の仕方はグルメと程遠い芸人について、「日本中が羨む人気の美人モデルと結婚しているのになぜ」といった話題と、「美人かどうかと不倫をしてもいいかどうかは関係がない!」という正論がTwitterなどで2周ほどした気がする。
どちらの気持ちもわからないではないが、どちらかというと多目的トイレに1万円で呼び出される女の側の気持ちで世界を眼差して生きてきた私から見ると、「人も羨む美人妻」と、詳細を声に出すのが憚られる品のない不倫という組み合わせはあまりに既視感があるものだ。だから「それなのに何故」は確かに全く見当違いの問いで、付け加えれば「性格の不一致も?」とか「家庭生活に不満?」とかいう見出しも問題の本質とは関係なく、「人も羨む妻」と「問題なく順調な生活」をしていたからこそ、この不倫劇が典型的なものであることを物語っている気がする。