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数々の胸を打つシーンが生まれた理由

 たしかに、豊川が手話する手指の繊細さは指によるコンテンポラリーダンスのようで、ドラマの格調を高める。彼の瞳の強さ、手話を芸術的に操る仕草、風をまといさっそうと歩く姿など卓越した存在感は障害者を描いたドラマへの偏見を払拭した。彼の圧倒的な魅力は、障害があることはマイナスではなく、人それぞれの違いに過ぎないというプラスに転じて見せたのである。むしろ、紘子のほうが、精神的に未成熟であり、何かとわいわい騒ぎ場をかき回す。第1話で、紘子が他所様の家のリンゴをもぎ取ろうとする行為はよく考えたらあかんだろう。そんな紘子を晃次はその大きな手のひらで包み込んでしまう。

 見た目だけでなく、俳優としてのものづくりに携わる感性の鋭敏さを豊川は発揮し、この設定以外にも演技プランなどを提案して、脚本家や演出家と話し合っていたという。見た目だけではなく、作品を理解し、役を深めていくことを当たり前に行っていたからこそ、数々の胸を打つ場面が誕生したのだろう。

榊晃次役の豊川悦司 ©︎AFLO 

「愛している」と言ってほしいのに……!「もどかしさメガ盛り」の展開

 豊川自らが申し出た、“声が出せない”という設定は、この人の声が聞きたいという欲望を駆動させた。

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 見た目×実力、パーフェクトな榊晃次のただひとつの欠落――。それは声である。こんなにも素敵な彼の声がドラマではなかなか披露されない。こころの声として出てくることになるが、第1話では一切、彼はしゃべらない。でも、ある瞬間――。その不意打ちにやられる(仕掛けの妙)。そしてドラマは、愛する人の生の声を聞きたい、タイトルどおり「愛している」と言ってほしいという気持ちがどんどん高まっていく。視聴者も、豊川悦司の声を熱望するのである。

ヒロイン紘子役を演じた常盤貴子 ©︎AFLO

 恋愛ドラマにはもどかしさは必須だ。親の反対だとか、相手が妻帯者だとか、年齢が離れているとか、余命わずかとか、何かしら障害があるからこそ愛は燃えるもので、「愛していると言ってくれ」は恋人たちに言葉が聞こえないという最大のもどかしさが常に横たわっているうえ、晃次の義妹(矢田亜希子)、離婚によって晃次を捨てた実母(吉行和子)、晃次の元カノ(麻生祐未)、紘子を見守る幼馴染(岡田浩暉)と次々に恋路を阻む人たちが現れて、もどかしさメガ盛り。紘子と晃次の心はグラングラン揺さぶられる。ここまでメリハリの効いた展開は、いまだと、韓国ドラマくらいでしかお目にかかれない気がするが、連ドラの醍醐味ってこれなんだなと「愛していると言ってくれ」を視ているとしみじみ思う。

 シンプルなストーリー、障害を用意して、盛り上げるところはあざといくらい盛り上げる。クライマックスは毎回、ドリカムの「LOVE LOVE LOVE」でダメ押し。もう完璧である。