緒方が子どもを連れて『曽根アパート』へ
〈被告人松永は、その後、被害者乙に対し、「長女は、前夫が可愛がっていたから前夫に渡そう。」「長男は、佐賀の全寮制の中学校に入れるから、受験勉強のために塾を続けさせた方が良い。」などと申し向け、その長女は前夫に引き渡し、その長男は実家に預けたままにすることを納得させた。
その上で、被告人松永は、平成8年(96年)9月25日、被害者乙に対し、四畳半和室及び六畳和室並びに台所等からなる2DKの間取りの『曽根アパート』の賃貸契約を締結させ、同年10月21日ころ、同被害者を二女(当時3歳)とともに『曽根アパート』に転居させ、同被害者との同居を開始した〉
裕子さんと初めて同居した日の夜、松永は彼女に言う。
「早く籍を入れよう。当分は家にこもって小説を書くけど、迷惑かけるね」
ついに将来の婚姻相手との同居生活が始まる。裕子さんが喜んだのも束の間。彼女が予想もしていなかった出来事が起こる。翌22日に、松永の姉になりすます緒方が、4歳の長男と0歳の次男を連れて『曽根アパート』に押しかけてきたのだ。そのとき松永は次の説明をしていた。
「実家の母が死に、姉は母堂様になったので、六畳和室で子供たちと一緒に寝る」
松永がいきなり鬼の形相に豹変
その結果、裕子さんと3歳の娘は四畳半の部屋に追いやられ、松永は“姉”の緒方や子供たちと同じ部屋に寝ることになった。また、同時期に松永は裕子さんに「姉に管理してもらうので、通帳や印鑑は姉に渡しなさい」と告げ、当時北九州市内のホテルに勤めていた裕子さんの、銀行口座に振り込まれる給料を、みずからの管理下に置くよう仕向けている。
裕子さんは数多の出来事に戸惑いを感じてはいたが、これらは一過性のもので、やがて姉らは出ていくだろうと考えていた。そのため現状を受け入れ、普段通りに仕事に出かけるという日々を送った。
それから1カ月あまり経った10月下旬。裕子さんの離婚から半年が経ち、ようやく入籍できる時期になった。だが、松永は彼女と結婚する素振りを一向に見せない。裕子さんが不満を募らせていたある日、松永はいきなり豹変する。それは彼女が、これまでに一度も見たことのない鬼の形相だった。