党軍事委員会による保留という点は今後を予測する上で不確定要素になります。結論としては、軍事計画を諦めたのではなく、事前に綿密に計画された戦略だと見るのが正しいと思います。
「韓国は北朝鮮に追従する」
ーー北朝鮮の目的は何なのでしょうか?
今回の北朝鮮の最大の目的は、共同連絡事務所の爆破、対南ビラ散布計画、軍事計画のような“力”をともなう威嚇を通じて南北関係破綻宣言を進めることにより、金委員長の地位の高さを内外に改めて強く刻印させる事です。
今回、金委員長はごく僅かなリスクも負担も負うことなく、綿密に計画された全ての戦略を順調に進めました。一言で言えば、金委員長は今回の戦略により確実に南北関係を主導していて、韓国は北朝鮮に追従するということを、様々なニュースを通じて世界に刻印させました。
特に2018年に行われた文在寅大統領との3度に渡る南北首脳会談を通じて「騙された」「やられた」との憤りを、南北関係破綻という強い手で文大統領にお返ししたのです。
すでに金委員長は2019年4月の最高人民会議施政演説で文大統領に対する評価を下しています。(筆者注:金委員長は演説で「南朝鮮(韓国)当局は、周囲の様子をうかがいながら、(米朝の)『仲介者』などと差し出がましいことを言うのではなく、堂々と民族の利益を擁護する当事者となるべきだ」と発言)
現在に至るまで南北関係は一歩の進展もなく冷却期になっています。それでも満足することは出来ず、金委員長は文大統領に南北関係破綻という宣言を下し、個人的怒りの復讐をしたのです。今後金委員長は、南北関係を「互いに干渉しない関係」だと主張するでしょう。これは、北朝鮮ではすでに変更されていた通りの対南戦略です。今回の機会がその出発点になるでしょう。
また、北朝鮮人民の脱北を防止するという観点から、韓国での脱北者の立場を弱体化させ、韓国人の脱北者に対する不安や不信を増加させる目的もあります。韓国内の分断を最大化する狙いも見えます。
総体的に言えば、今回の北朝鮮の戦略は、朝鮮労働党創建75周年記念日(2020年10月10日)という節目を控えて進められた、南北関係に関する事業の一環と見れば良いでしょう。
※次回は「北朝鮮の次の一手」「核戦略の変化」について高位脱北者が分析する