鍋を囲む季節でもないし、コロナ禍のせいで大勢で中華料理を食べに行く機会も減っている。そんな時期にこんな話題で恐縮だが、今回のテーマは「猫舌」。
熱いものを食べられない、というより、口に入れられないのが猫舌。何を食べるにも冷まさなければならないので、1人での食事なら構わなくても、何人かが集まっての会食などでは、全体の食事のペースを落としたり、本来のおいしさを味わえなかったり、色々と面倒が付きまとう。
そんな猫舌を、アカデミックに検証した医師がいる。医学的な猫舌のメカニズムとは――。
困っている人がいるなら、何とかしてあげたい
「猫舌は病気ではありません。でも、猫舌の人が日々の生活で苦労を強いられているのも事実。困っている人がいるなら、何とかしてあげたいと思うのが人情じゃないですか」
と笑って話すのは、東海大学工学部医用生体工学科教授で放射線科専門医の高原太郎医師。
MRI(核磁気共鳴画像診断)のスペシャリストとして知られる高原医師が、猫舌に興味を持ったのは、自らの教え子の卒業研究のテーマ探しがきっかけだったという。
「猫舌に医学的な興味を持つ人は昔からいて、私も機会があれば……と思っていたんです。ちょうどうちの学生がテーマ探しで悩んでいたので、『面白そうだから猫舌でやってみたらどうだろう』とそそのかしたんです。実際にやってみたら想像以上に面白くて、私のほうがハマっちゃった(笑)」
過去に報告された猫舌に関するレポートを見ても、あまり科学的な裏付けのあるものは見当たらなかったので、せっかくだから真剣に取り組んでみよう、ということになった。
熱いものを食べるとき、口の中はどうなっているのか
高原医師の研究室は、臨床工学技士の国家資格を狙う学生の集団。当然MRIの扱いにも長けている。そこで、熱いものを食べる時の口の中の動きを「Cine MRI」という短時間の連続撮像ができるMRIを使って検証することになった。