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2020/07/14

まずは春巻きと餃子から!

 それにしても、驚かされるのはメニューの豊富さだ。看板こそ「らーめん」だが一品料理も充実しており、むしろ中華料理店に近いかもしれない。料理が運ばれてくるたびに、そんなことを感じた。

 カリッと揚がった春巻きも本格的だし、餃子も「普通」でうまい。今風ではないかもしれないが、奇をてらうことなく、昔ながらのやり方を続けてきただけ、とでもいうような。

 

 

 

 ここは当たりかもしれないなぁと思いながら食べていると、作業を終えた店主はいつの間にかホール側に出てきていて、両手を後ろ手に組んで立ち、テレビのニュースを見上げている。もう一度、話しかけてみよう。

「ここはいつからやってるんですか?」
「30年ぐらいになるんじゃないですか?」
「2代目ですか?」
「いや、俺が最初にやり出して、そのままですよ」
「マスターはおいくつですか? お若く見えるんですけど」
「70越えてるんじゃねえのか?」

マスターの言葉数が増えてきた

 若く見えるのには、ひとつ理由がある。白衣を羽織っているのだが、その下には紺とスカイブルーのチェックのシャツを着ていて、黒いボウタイをしているのだ。ボトムは深いブルーのデニムで、靴は履き込んだワラビー。センスが若いのである。無意識のうちに「マスター」と呼んでいたのはそのせいだ。

 
 

「おしゃれですね」

「いえいえ。あるものはなんでも使うよ。いちいち他人のために着てたり、履いたりするわけじゃないから。自分がいいと思うものでいいわけだから。いまの人たちは気を使い過ぎて、みんな大変だろうと思うよ」

 このあたりから言葉数が増える。エンジンが温まってきたようだ。