文春オンライン

東向島で見つけた“下町の中華料理店” 「450円のラーメン」に72歳店主のやさしさを感じた!

B中華を探す旅――東向島「らーめん高山」

2020/07/14
note

「表通りでは大変だろうから、わざわざ目立たないところを探してここへ来たの。だから、暖簾も出さない。でも、30年ぐらい前は忙しくて大変でしたよ。この辺は昔、プレスだとか金型だとかの小さな工場があったんですよ。そういうところはいつも残業してるから、うちも遅くなっちゃう。9時に閉めてるのに、片づけ終わるのが11時、12時ですよ。それで仕事が終わって、飲む時間も少なくなるじゃないですか。仕方がないから吉原に電話して、汗流させてもらう。

 ああいうところへ行くと馴染みがいて、ちゃんとお酒を用意しといてくれるんだ。電話入れると、『12時までに入れるの?』とかって言われて。だから帰りはいつも、後ろの出口。前はシャッターが下りるから、従業員が最後に出るところへ靴持って出てくるの。ああいうところの女の子も、おもしろかったねえ。飲ましてくれるし、店に入れる入浴料以外はお金いらないとか言われて。俺がモテたんじゃなくて、それだけ粋だったんですよ、店の女の子もね」

 

締めは煮干しベースのラーメンで!

 息子さんと娘さんは独立していて、孫もいる。40代の息子さんはずっと同じ会社に勤めており、跡を継いでほしいと思ったこともなかった。

ADVERTISEMENT

「全然思わなかったですよ。息子の人生、他人の人生ですから。親がこうだからじゃなく、おまえががんばって好きなように進めば、それでいいじゃないかと。まあ、生きてきたら最低限、自分で飯を食うぐらいは仕事しなきゃダメだ。でも、どんな仕事だっていいんですよ。俺は基本的にはもう子どもが20歳過ぎて、親の責任は果たしたと思ってる。だから、おまえはこうしろ、ああしろと言ったことはないですもん」

 話がおもしろすぎてつい聴き込んでしまったが、最後には締めのラーメンをいただいた。具はチャーシューが2枚と、わかめ、玉子、メンマ、そしてネギ。麺は柔らかめだが、締めにはちょうどいい気がする。スープは煮干しベースで、やさしい味わいだ。マスターの人柄が表れているなどと言ったら、「かっこつけすぎだ」と突っ込まれてしまうだろうか。

 
 

「書いてくださいとも言わないし、ダメとも言わないし」

 ところで、お店のことを書いていいかとお尋ねしたら、とても印象的な答えが返ってきた。

「俺、基本的には宣伝してもらうことは好きじゃないですよ。でも、書いてくださいとも言わないし、ダメとも言わないし。それはお客さんが自分で判断することで」
「だったら、書かせてください」
「それはね、俺に言わないほうがいいですよ。勝手にしていただいて。別に名前出さなきゃいいじゃないですか。うちの名前を出さなきゃいいわけだから」
「いや、それは出したいんですけど」
「それは基本的に、聞かれると、ダメですって言いますよ。聞かれないで出されたとしたら、別になんとも。俺は断わってないから、怒りもしませんけどね」
「じゃあ、聞いてないことにします(笑)」
「だから、聞かれたらダメって言いますよ」

 というわけで、顔写真を撮らせていただくことは遠慮した。しかし帰りがけには出口まで見送ってくれたり、どうしても人柄のよさが滲み出てくる方なのだった。

 

 撮影=印南敦史

INFORMATION

らーめん 高山
東京都墨田区東向島6-29-1
営業時間 11:30~13:30、17:30~21:00
定休日 日曜日

餃子 450円
春巻 500円
らーめん 450円
ビール 450円

東向島で見つけた“下町の中華料理店” 「450円のラーメン」に72歳店主のやさしさを感じた!

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー