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「たしかに、いま人の目を気にする人は多いかもしれませんね」

「あんまり気にする必要はないよね。不愉快にしなけりゃいいんじゃないの? うちらの商売でいえば、においだとかに気をつけて、あとはきれいなもんを着れば。蝶ネクタイは、自分が首締めとかなきゃダメな人間だから。ひとりでやってるから、誰も注意するやつがいないじゃない。そうすると、切り替えってけっこう必要なのよ。仕事に入る、客を迎えるっていう。そのためのネクタイだから」

「いいことですね」

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「ただ、俺なんかはもうこの歳になるとさ、別に嫌われてもいいやと思っているから、別に気を使うことはないけどね。でも、まあ、最低限ははずせないところがあるだろうから」

 

最後は“普通の餃子”に戻ってくる

 人柄は外見に出るものだ。そして身だしなみをきちんとしている人は、仕事もきちんとしているものである。そう考えると、春巻きや餃子がおいしいことにも納得できる。

「うまいですね、餃子」

「ああ、そうですか。いまはみんな、皮にホウレンソウ入れたりとか、いろいろ努力してるとは思うんですけどね。でも最終的には、オーソドックスなほうに戻ってくると思いますよ」

 

「そうそう、普通が一番いいんですよね」

「食い物なんて、100人が100人おいしいと言うとは限りません。だから、『ああ、俺、こういうの好き』と思って食べられれば一番いいんじゃない?」

「特別なものがあるわけじゃないから」

「うちなんか、特別なものがあるわけじゃないから。まあ基本的に、ひとつのものをずっとつくってるところが、いちばんわかってるんじゃないかなあ。老舗といわれてるところは、必ず1つか2つ、長年続けてるものがあるじゃない」

 かつて近所にあったB中華の店の店主(当時86歳)も、まったく同じことを話していたことを思い出す。たしかにそのとおりで、100人全員が絶賛するような店のほうが、逆に疑わしいのかもしれない。

 ところでマスターは、どこかの名店で修業を積んできた経験がおありなのだろうか?