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西成ナンバー1の賭場で起こった事件

 マスコミから「蟻と象の戦い」と揶揄された松田組と山口組の抗争――いわゆる大阪戦争は、西成でナンバー1と言われた松田組の賭場に押し掛けた山口組佐々木組組員が、盆中を土足で踏みにじったのが発端だった。博徒社会では古来賭場荒らしは簀巻きにされ、川に放り投げられても当然の行為といわれてきた。松田組は日本一の巨大暴力団組員の狼藉を見逃さず、その鉄則通り、この山口組佐々木組組員を射殺した。ちなみに松田組系溝口組の親分は、警察で柔道を教えていた。そのためなのか、3人を殺し、1人を半殺しにした実行犯は、20年にも満たない懲役だった。その後、報復合戦で松田組のヒットマンが三代目山口組田岡一雄組長を狙ったから、山口組は組織をあげて松田組に襲いかかった。結果、松田組は主要な賭場を封鎖することとなり、経済的にも、人的にも壊滅的な打撃を受けた。

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 しかし、抗争当時、ヒットマンを恐れず、賭場を開け続けた松田組の組長もいたという。抗争に直接関与した人間はもちろん、この人間も、賭場に命を賭けていたと言っていい。

 暴力はどんな形であっても正当化されるものではない。しかし、決して社会から認知されず、極めて独善的ではあっても、松田組の暴力に博徒の哲学が存在したことは事実である。そしてこの抗争で博徒の弱みがはっきり分かった。盆中に依存している以上、抗争になると経済活動が停まってしまう。博徒は喧嘩に不利なのだ。

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食事にトリやネギは御法度

 詳細は省くが、相手の心を読み合う心理戦だから上手い下手がもろに出ていた。ある総長は何度もスイチを張り、一度も当てることなく帰った。胴師は常時、20人ほどいる客を相手にする。すべての人間を躱すことはできない。いったい誰がたくさんの金を張ってくるか。それを見抜き、その客が出すだろう目を見切る。かなりの洞察力と判断力が必要で、見ているだけで疲れた。実際、手本引きの心理的駆け引きはひどく体力を消耗させるという。屈強な男でもざっと2時間が限界で、とても女には務まらない。だから胴師は一晩で数人交代するのが常だ。